Nonexistent person

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ぬるい炭酸と無口な君

泡が弾けた。まるで花火の様だ。
儚く散る線香花火にそっくりでそれはすぐに空気に溶けてしまう。
君からも僕はこう映っているのかな。
何でもいいから覚えて欲しい。
そんなことを考えてもきっと無駄だ。
若いうちに認知症になって僕の事なんて何も知らないんだから。
もう他人なのに僕の脳裏には君が住み着いていて声も忘れたはずなのに話しかけてくれる君が愛おしくて、今はいない明るい君をずっと夢見てた。
人魚姫でさえ好きな人の為に泡になれたのに僕はそんな覚悟すら決められなくて君の中の僕の延命処置を続ける為だけに毎日話しかけているようなものなんだ。
もう口も開かないでこちらを硝子玉の様な綺麗な目で見つめる君には分からないと思うけれど僕は君が好きだった。
本当に、本当に好きだった。
そんな事を思い返しながらラムネ瓶に口を付けた。
それは君の体温のようにぬるくてそれが妙に気持ち悪くて優しい味がした。
もう戻らない日々に。
藍色に散る夏の風物詩に意識を投げながらそう思った

8/3/2025, 11:49:21 AM