《この道の先に》
「うーん、確かここを曲がって…。」
私は以前見掛けた雑貨屋さんに行こうとしていた。
その時は時間がなかったのでちらりと覗くだけだったけど、素敵なデザインのペンやノートが並んでいて、次は絶対にここに行くんだと決めていた。
のだけれど。
行けども行けどもお店の姿は見えず。
あれ、おかしいな。あの日は暑かったし幻でも見てたかな?
そもそも帝都は実際に歩いてみると、同じような建物が並んでいるので迷いやすい。
上から見るならともかく、どこで曲がればよいかが物凄く分かり辛い。
まずい。そろそろ疲れてきた。せめて知ってる場所に出ないと。
夏の太陽も元気な中、きっとこの先に!と当たりを付けて曲がってみる。
…うわー、行き止まり。
しかし、そこにはローブを羽織り深くフードを被ったお婆さんが布を掛けたテーブルに水晶玉を置き、椅子に腰掛けていた。
その身に纏う空気はどこかじっとりしていて、油断ならない雰囲気が漂っていた。
「おや、こんにちはお嬢さん。」
お婆さんは値踏みするような視線でこちらを見たと思えば、掠れた声で挨拶をした。
「…こんにちは…。」
私は緊張を走らせながら挨拶を返した。
こういう手合いは相手をせずに離れるのが一番なんだけど、何故か身体は逃げられない、逃げちゃいけないと反応する。
それにしてもどこかで見たようなそうでないような…と逡巡する。不思議な感覚だ。
「おやおや、そんなに固くならんでいいよ。危害を加えるつもりはない。」
お婆さんは一言言うと、水晶玉に両手を翳した。
すると水晶の中にはどろりとした闇が現れたと思えば、その闇を包み込むように赤い花弁が渦を巻き始めた。
この花弁…!
気付いた私に、お婆さんは面白い物を見たと言わんばかりに私に語りかける。
「ほっほほ。ほうほう。そなたは二つの存在の間で揺れ動いてるね。
こちらの自分が何者か知るところではないだろうが、いずれそなたの心がどちらの存在となるか導いてくれるだろうて。
そなたはそなたの望む先へ行きなされ。そなたの想いが全ての鍵だからね。」
二つの存在?それは、もしかして…。
思い当たる事があった私は、お婆さんにそれを聞こうとした。
「ねぇ、それって…!」
が、その質問が完成する前にテーブルの水晶玉が激しい光を放ち、私は眩んだ目を庇うように腕を当て顔を背けた。
一瞬後に目を開ければ、そこは彼の家へと続く私の知った道だった。
ローブのお婆さんもいない。さっきの袋小路は何だったのだろうか。
あのじっとりと逃げられないような空気も霧散したが、心には重苦しい物が残った。
やはり二つの存在とは、私の持つ白に近い銀髪と赤紫の瞳に関係があるのだろうか。
彼に闇の者だと断じられた、この色に。
私の想いが、全ての鍵。
その想いとは一体何で、どこへ向かうものだろう。
そんな身の置きどころのない思いに駆られ自分の身体を抱きしめていると、無性に彼の顔が見たくなった。
7/3/2024, 10:56:16 PM