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『生きる意味』

 雨が俺の服を濡らし、体温を奪っていく。

 買い物の帰り、急に雨が降ってきた。勿論傘なんて持ってきているはずもなく、ちゃんと濡れることにした。

 「あ〜寒いよ〜。天気予報は晴れだったでしょ〜」

 なんか清々しい。やはり割り切って正解かもしれない。濡れるのが楽しくなってきた。

 子供のようにはしゃいでいると、後ろから急に頭を何かで叩かれた感触がした。

 「いたっ! え、何?」

 振り向くと、そこには俺の生きる意味である大切な人がいた。

 「なんで大人しく濡れてるのよ。ほら、傘持って来たから」

 捨てられた俺を拾ってくれた人。名前を小夜と言う。ごめん、小夜さんにしておいて。

 ねぇ、今小夜さんが年上だと思ったでしょ? 思ったでしょ? 残念、年下なんです!!!

 「え、めっちゃうざい。なんだお前」

 「なんで心読めてんの?!」

 「煌驥の考えてる事なんて全部お見通し」

 「きゃ……//」

 「おえっ……気色悪すぎて吐きそう。消え失せなさい」

 「流石に傷つくよ?」

 そんな軽口を言い合いながら、帰路に着く。

 ちなみに俺のこの砕けた口調は小夜さんに言われた。

 曰く「煌驥の敬語とか需要ないから」らしい。酷くね?
 
 隣で歩いている小夜さんを、ちらっと見る。

 俺は、この人に恩返しするまで死ねない。小夜さんは俺の生きる意味なんだ。

 俺の人生は、全て小夜さんに捧げる。その覚悟は、小夜さんが俺に手を差し出してくれた時に、もう決めている。

 「小夜さん」

 「ん、どうしたの?」

 「俺は、ずっと小夜さんについていきます」

 小夜さんが、怪訝そうな顔で俺を見てくる。急なのは自覚してます。ごめんなさい。

 「急にどうしたの? なんかあった?」

 「いえ、少し前のことを思い出してただけです」

 俺は、少し真剣な顔で小夜さんを見る。俺のその顔に、小夜さんの顔も少し強張った。

 「俺は、小夜さんに救われました。お金も、家も、何もかもが無い俺の事を、小夜さんは助けてくれました。自分に利益が無いのに。だから、次は俺の番です」

 俺の覚悟を、この言葉に込める。

 「絶対に、小夜さんに恩返しします。俺の一生をかけて」

 「ふふ」

 小夜さんが笑う。俺、結構真剣なんだけどな……。

 「大丈夫。ちゃんと真剣なのは伝わってる」

 「本当になんで俺の心読めてるんですか?」

 マジで怖い。え、俺もしかして危ない? 鳥肌がすごいんだけど。
 「真面目に言うと、毎日貴方の事を見て来たから」

 前を向き、小夜さんは笑顔を崩さず言葉を紡ぐ。

 「真面目で、他人に優しくて、私の事をしっかり考えてくれる。だからね——」

 そして、世界一可愛い笑顔で、俺にその言葉を言った。

 「貴方を拾って良かった。これからもずっと一緒に居てください。私にとっても、貴方は生きる意味なんだから」

 ああ、やっぱり、小夜さんは最高だ。

 「はい、勿論。好きですよ、小夜さん」

 「ふふ、知ってるよ。私も大好き」
 
 

 

 

 

4/29/2024, 11:01:53 AM