たぬたぬちゃがま

Open App

「ああ、今日もなんて可愛らしい。愛しているよ。」
「はい、旦那様。」

会話だけ聞いたらさぞおしどり夫婦に聞こえるだろう。私の足から金属が擦れる音さえしなければ。

「旦那様は奥様を溺愛してらっしゃる。」
「奥様の足に鎖をつけて部屋から出さない。」
「奥様の周りは既婚者で固められている。さぞ心変わりされるのを恐れているんだろう。」
ひそひそと聞こえてくる使用人の声に、若干嫌気がさしてベッドにダイブした。ジャリッという金属音が耳に障る。あの男が溺愛だなんてとんでもない。
彼の父は、私の父が殺したのだから。
単純な話だ。飼い殺しにするために鎖をつけて閉じ込めているのだ。部屋から出さないのも人を定期的に入れ替えているのも、反逆の余地を残さないためだ。
羽根を一つずつ毟られた鳥は鳥籠でピィピィ鳴くしかない。彼が飽きるその日まで。

-------

「愛しい人、どこにもいかないでおくれ。」
「はい、旦那様。」
やっと手に入れた小鳥は、随分とやつれてみえた。昔と性格も違う、いや中身が違うように感じた。
答えはすぐに出た。彼女はある晩、部屋の調度品を壊したり泣き叫んだりした。口調から何から様子の違う彼女を抑え、部屋に閉じ込めた。しばらくするとふっと静かになり、扉を開けたらスゥスゥと寝息を立てていた。
暴れた間のことは覚えていないらしい。
足枷をつけることで、暴れている時の彼女の言動が少しマシになった。

どうして彼女が二面性を持った人になったのか。知っているであろう彼女の父は私の父が殺してしまい、知る余地もない。彼女は私の父を自身の父と思い込み、父が来た翌日に暴れてしまう。泣き叫ぶ彼女を子供のようにあやすと比較的マシになるため、既婚者で子持ちの人材で固めた。既婚か独身かでも反応がだいぶ変わってしまうからだ。


なぜ彼女は父親を間違えて思い込んでいるのか。既婚者の使用人しか受け入れられないのか。
答えは彼女の心に潜るしかないが、無理に潜ったら間違いなく彼女は壊れるだろう。
だから今日も愛を囁く。早く懐に入れてと願いを込めて。
「愛しいあなた、そばを離れないで。」
「はい、旦那様。」


【隠された真実】

7/14/2025, 9:44:08 AM