うどん巫女

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誰かのためになるならば

「あっっつぅ〜い…宿題おわんなぁ〜い…」
「まだ始めて5分で何言ってんの」
わけのわからない数学の問題とにらめっこしてはや5分。ヤケになって机につっぷした私に、友人のカナは呆れたように言う。勉強の得意なカナにとってはたったの5分かもしれないが、勉強の不得意な私にとっては地獄のような5分だ…。
「そもそもさ、数学とかやる意味が見出せないよ…。だって、大人になって仕事するときに因数分解なんて使わないしさぁ」
「まぁ確かに、学校で習ったことをそのまま全部使う職業は多くはないだろうね」
「でしょ?!じゃあ今こんなに頑張る意味ないじゃん!」
食いかかるように私が言うと、カナは、んー、と顎に手を当てて少し考えた後に、こう言った。
「じゃあさ、たとえば、1+1がわからない人が総理大臣になったら、ミナはどう思う?」
唐突な例え話に面食らった。カナは時々こうやって、少し回りくどいけれどわかりやすい話から始めることがある。
「えー…それはちょっと、やめてほしいかな、って思うかなぁ」
「なんで?」
にっこりと笑って、再び私に問いかけるカナ。
「え、なんでって…そりゃ、そんな簡単なこともわかんない人に、日本を任せたくないなぁと思うから…?」
「そうだよね。じゃあ、もし弁護士の人に相談するとき、その人が織田信長を知らなかったら、信用できる?」
「うーん…ちょっと不安になるかな、ちゃんとした弁護士さんじゃないのかも、ってなる…」
「だよね、それと一緒なんだよ。別に学校で習うことが全て正しいわけでも、全て必要なわけでもない。でも、学校で習うようなことは、いろいろな学問を学ぶ基礎になることが多くて、それがちゃんとわからない人は、必ずしも信用してもらえないってこと」
「はぇ〜…」
なるほど、納得した。何にも考えてない私と違って、カナはちゃんと自分の意見を持ってるんだなぁ…。
「もっと例え話をするなら、例えばカナが花屋さんになったら、お花にまつわるいろんな話、それこそ古典とか、知ってたらいろいろなお客さんを喜ばせられるよね。だから、今学んでることは、未来の自分のためであり、いつかどこかで出会う誰かのためのことなんだよ」
だからね、と微笑みながら、カナは私のノートの既に解き終わっている問題を指差した。
「こことこことここ、間違えてるから、もっかい解き直そうか。未来の誰かのために、ね?」
「うぇ〜…はぁい…」

7/27/2023, 8:35:47 AM