強烈な出会いってあると思う。
僕の場合は、それが祖母の葬式だった。
小学生の頃、祖母の葬式に参加した。葬式に出るのは初めてのことで、よく分からないまま母に連れていかれたのを覚えている。
祖母がいないという実感もないまま、お坊さんが長いお経を唱えているのをぼんやりと聞いていた時だった。
その人は、ヒールの音を鳴らして祖母の棺に近づいた。周りの大人達がざわつく。その人の腕には、赤い薔薇の花束が抱えられていたのだ。
真っ赤な薔薇と、ヒールの音。お経よりも、それに釘付けになった。
小学生の僕は、どうして周りの大人がざわついていたか分からなかったけれど、大人になった今なら、あの人の異常さが分かる。葬式に赤い薔薇はありえない。
「そういえば……」
あの時、母は言っていた。赤い薔薇、しかも七本なんて。と。
「七本……?」
指を滑らせ、スマホで意味を調べる。
程なくして出た検索結果に、思わず苦笑いしてしまった。葬式だからこそと言うべきか。七本の花束は、あの人から祖母への最後のメッセージだったようだ。
今でも忘れられない、祖母の葬式のあの人。
いつか僕にも、あの人のように想ってくれる人ができるだろうか。
2/9/2024, 2:15:40 PM