今日はひどく雨が降っていた。
「雨は嫌いだ」
「そう?私は雨が好きだけど」
窓の外を見ながら、僕らは不毛な会話をしている。僕は雨が嫌いだった。特に理由があるわけでもないが、一つ言えることはこの湿り気で髪の毛の天パがさらにくるくる度を増していた。
「雨なんて一年中、どこでだって降るのに気にしてたらキリがないよ」
「別に降るな、っていう意味で嫌いなわけじゃない。ただそこにあるだけで鬱陶しく感じるから嫌いなだけで」
「うわ、どの天気にもケチを付けるタイプだ」
「天気だけじゃなくてどんなものにもケチをつけるよ、悪かったね」
やっぱり捻くれてるな、蒼原は、と青雲はからから笑う。そんな青雲に僕は、むすっとして、結局どの日が一番好きなのか訪ねた。するとまた大きな声で笑った。
「あはは、私は晴れの日も曇りの日も好きだよ」
「雪の日も?」
「雪の日も」
「青雲に嫌いなものとかあるの…?」
「うーん、ないことはないけど人よりは少ないんじゃないかな」
「その秘訣は」
「だってさ蒼原、嫌いなものより好きなものが多いほうがこの世界を愛せるもの」
「嘘つき」
「嘘なんかついてないよ」
「だって君は」
世界なんてこれっぽっちも愛してないくせに、もうとっくに見切りをつけてるくせに、と口に出そうとしてやめた。
「不毛だ、やっぱり雨なんて嫌いだ」
「君が雨を好きになるまで待ってるよ」
「そんな日、来ない気がする」
「そんなの、来てみないとわからないでしょ」
雨はさらに激しさを増して、窓に打ち付ける。
「なんで青雲は雨の日が好きなの?」
「そうだなあ…強いていえば音かな」
「音」
「うん、どんな天気でもこんなに心が落ち着く音を奏でられるのは雨だけなんだよ」
「そんなに心地いいかな」
「うん、心臓の音とよく似ている」
そう言われてそっと耳をすましてみる。雨の音が部屋の無音をかき消して、僕らの世界に割り込んでくる。それが心地よく感じて嫌になる。
「…だから私は雨は好きだ。好きなんだよ、」
まるで言い聞かせるような言葉に腹が立ち、僕は八つ当たりするように
「いつか嫌いなものがあっても世界を愛せるといいね」
と青雲に言った。
「さあ、どうだろうねえ」
青雲はいつもと変わらない声と顔で笑っていた。
―そう遠くない未来の話―
あの日と同じ、ひどく雨が降っている。僕はふと立ち止まり傘を少しずらして、空を見上げた。
灰色で、重々しくて、冷たくて、止まなくて、悲しいくらい平等で、何も知らないふりをして降り続ける。そんな空を見つめながら、青雲のことを思った。あの日の会話のことも。そして誰に言うともなくつぶやく。
「やっぱり僕は雨を好きにはなれそうにないや
「だから、もう無理に好きになろうとはしないよ、
「君も側にはいないことだしさ
「きっと、それでいいんだ
「嫌いなものがたくさんあっても、僕は世界を愛してる
「よく言うでしょ、好きと嫌いは表裏一体だって
「だから、いいんだ
「青雲、僕が雨を嫌いな理由、君が納得できるようにたくさん用意しておくからさ
「そっち側でのんびり、笑いながら待っててよ」
まだ雨は止まない。
2/13/2023, 3:01:34 PM