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 目が、あった。

 真夜中の教習所裏、見渡せど足音は無く、故に寂れた筈の場所。だがそう、思った。
 東京郊外の住宅街なのだから、街灯はちりつきながらもそこかしこに灯って、月明かりを集めた眼が光れるような明度ではなく。
 それでも、瞳孔が大きく開いた、怯えたような視線が、確実に私を見ていた。

 なぜか、息が詰まった。

 まじまじと見つめ返す。藪に逃げ込む手前だったのだろうか。私が踏み潰せば死んでしまうような、小さな小さな身体が、あった。
 尖った鼻と、がたいの割に大きな瞳と耳を持つ、哺乳類。猫だ。生まれて幾ばくかの、猫。

 私は、おまえの何倍の体長を持つのだろう。おまえを喰らうイタチやカラスより遥かな巨人が、おまえを見ている。

 だがそれは、決して私から眼をそらさない。

 沈黙に耐え兼ねたのは私だった。そろりと一歩踏み出せば、すかさずそれは身を翻し、藪の中へと消えて行った。

 そうしてやっと、詰めていた息を吐き出した。

 自分が喰われるのではなかろうか、とは思わなかった。ただ、あれが可哀想なものか。私はああは生きられまい。
 
 ……あれは、野良猫なのだろうか。暗がりでよく姿も見えなかったが。ただ、あれは強かに生きていくのだろうかと、ぼんやり思った。

【子猫】
 




11/16/2023, 5:07:11 AM