火木金

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【遠くへ】

「遠くの街へ行きたい」
むせるような硝煙の中、一人の男は呟いた。

「へえ。遠くって、具体的には?」
隣の男は目も合わせないままに訊く。

彼らは、無限に続く大地の溝の中にいた。
大きな平地を挟んで向こう側にも溝があり、その溝の中には同じように人間が集まっている。
彼らはお互いを敵と呼んだ。

「そうだな、こんな殺風景な場所なんかと違って、季節が巡って、飯が美味くて、静かなところがいい」
黒髪の男は、遠くの溝を見つめて言った。

「はは、そりゃいいや。そんな夢のような国があるなら俺も連れて行って欲しいくらいだ」
隣にいた男は冗談めかして笑ってみせた。

「あるよ。そんな夢のような場所がね」
「へえ、いったい何処に?」
「遠くさ」

二人の男はひとしきり笑ったあと、溝を這い上がり、走った。
地面を全力で踏み抜き、力の限り速く。
遠くへいくように。

3/1/2026, 4:07:59 AM