あんたそのキーホルダーまだ持ってたの?いい加減捨てなさいよ。
母のその言葉を毎年聞いている気がする。母にとってはどうでもいいものなのかもしれないが私にとってはとても大切なお気に入りのキーホルダーなのだ。
何の変哲もないただのアザラシのキーホルダー。だがアザラシのキーホルダーをつけている人には早々で合わない。その点で言うと少し変わっているのかもしれない。なぜアザラシなのか私にも良くわからない。その当時は可愛いから何でも良かったんだろうけど。
キーホルダーをくれたのは隣の家に住んでいた薫。高校までは一緒だったけど卒業してから上京して会えなくなってしまった。薫の両親はそのまま残り家にいるからたまに近所で顔を合わせるが正月など薫が戻ってきている姿はここ数年1度も見ていない。向こうで可愛い彼女作ってるのかもしれないし、もしかしたら結婚してる可能性もある。
卒業してから10年も経てば何が起きてるか予測できないものだ。私も実際この歳になって実家に戻ってくるとは思っていなかったことだし。
毎年雪が降り出すこの時期になると小学3年生だった頃を思い出す。父が出張先で事故にあった。幸い命に別状はなかったものの暫く入院しなくてはいけない程の重症だった。当時の私は家族が大好きで父の状態を聞きショックで寝込んでしまった。
そんな時私に元気が出るようにと毎日声をかけに来てくれていたのが薫だった。小さい頃からずっと一緒で、家族ぐるみで仲が良く性別は違えど気が合うとても大切な幼馴染。父の話を聞いた薫は私が泣き止むまで隣にいてくれた。なかなか泣き止まないものだから薫が大切そうに持っていたキーホルダーをくれたのだ。
「あげる。だから泣かないで」
「なんっで……大切な…ものでしょ?」
「大切だからあげるの」
少しぶっきらぼうな顔をしながら私の手に置き握ってくれた。よく分からないけど心が落ち着いて私はそのまま寝てしまった。だからその後のことはよく知らないが母の話を聞くと薫も一緒に寝てしまったらしい。
そんな大切なキーホルダー。母にも父にも話していない。ふたりの秘密。
だから捨てられない。ずっと大切に持っている。
薫はもう覚えていないのかもしれない。それでも私の中には確かに思い出が残っている。
そしてもうひとつなんというのかよく分からないがこのことを思い出すと胸が苦しくなる。思い出に限らず薫のことを思うと不思議な気持ちになる。高校卒業する前会えなくなるのを聞いてとても寂しい気持ちになったのも覚えている。言葉で表すのは少し難しいこの気持ち。なんて言うのか私には分からなかった。
(続?)
『お気に入り』
2/17/2024, 5:05:08 PM