「おねーちゃん」
「どうしたぁ?」
純粋無垢な瞳が、お姉ちゃんと呼ばれた女性の方をじっと見る。女性の声は誰が聞いても分かる程震えていた。
「どうしてお父さんは倒れてるの?」
「これは、ね……お父さんはお酒の飲みすぎで酔ってねちゃった」
「お酒……?お酒って赤いの?」
「ワイン、かな。ワインって言う飲み物」
「わいん……そうなんだ」
血腥い匂いが部屋に充満していく。女性は隠すように持っていた包丁を地面に置くと、目の前の男児を抱きしめた。
「あのね、ここで見た事は、誰にも話しちゃだめ」
「……何で?」
「おねーちゃんとの約束。守れるよね」
「……分かった、守れるよ」
「うん、えらい」
返り血が付いていない方の手で数回男児の頭を撫でる。男児は喜んで女性に抱きついた。
「おねーちゃんの事大好きだから守れるよ!」
「うん、ありがとね。私も大好きだよ……何があっても、絶対守るからね」
「……?……うん!守る!」
男児の真っ直ぐな視線に耐えきれず、女性はもう一度男児を強く抱きしめた。
『澄んだ瞳』
7/30/2024, 12:46:55 PM