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物心ついた時から七夕の夜には空を眺めることだけは欠かさなかった。何億光年という距離を経て縮小した星々が、箱から乱暴に抛り出したレゴブロックのように夜空に散らばっている。美しい。大人になった今でも感想は変わらない。と言うより、私は昔から何も変わっていない。この景色を額縁に収めて独り占め出来たらと、子供じみた発想が今でも頭の片隅に出てくるのが何よりの証左だ。そうすると、私の人生に区切りは無いのだと悟る。

溜め息を吐き、生温い外気が後に続く。夏のせいで赤みがかった頬は濡れ息は荒かった。エロティックな夢を見ているようだった。眠気でとろんとした目で視界には収まりようが無い広大な星空の一点をぼんやり見つつ過去を振り返っていると、刹那に空を流星が横切った。いつも通りお願い事を込めるのだが、子供の頃は誰よりもその時を楽しく過ごせていた自信があるのに、ここ最近は何も面白く感じない。まだ理屈も諒解できなかった時分は流れ星の非日常感が私の非現実的なお願い事にマッチして、「叶いそう」という期待に繋がっていた。そうして願いが叶う将来を想像するのが楽しかったから毎年七夕という日を待望していたのに、今やそれはただのルーチン作業と化していた。これまで続けてきたのだから今年も来年も同様にしよう、という陳腐な煩悩。形式的にでも願っておけば叶うだろう、というチープな信憑。

バイトの仕分け作業と何ら変わらなくなってしまったらしい、そう心の中で呟きやれやれと少し下を向いて足元の姿勢を直し、もう一度空を見る頃には自分が何なのか分からなくなっていた。少し考えるが、淫らな状況に酔っていた自分に思考の違和感を取り除く余力はなく、私はよろよろと帰宅の途についた。

7/7/2024, 11:15:17 AM