彼の音楽は
なかなか陽の目をみず
彼の歌声に
足を止める人もまばらで
彼はある時
浴びるように酒を煽り
咽び泣いた
その夜は
この冬いちばんの
寒波が訪れると
気象予報士が
テレビ番組で声高に言っていて
泣き疲れた彼は
酔い醒ましにと
ベランダに出て
空を見上げた
彼は
歪んだ視界に瞬く
星々に嗚咽し
そして
そして
そのまま
翌朝を迎えたのだった
蒼白い顔をして
着の身着のまま
ベランダに横たわり
泪と涎の跡が、霜のように白く残っていた
彼の音楽は
燃えるような彼の心情そのままで
一人の少年が
アップしたSNSをきっかけに
瞬く間に世界中に拡散した
彼を知る人は
その夜
彼を偲んで哭いた
ただ
ただ
失われた彼の肉声を懐かしんで
#失われた響き
11/30/2025, 7:56:37 AM