杢田雲

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良いとか悪いとかいうことは、極論すると個人の倫理観に依るものだ。
だから俺がそれを善だと言う時、お前がそれは悪だと言うのはおかしなことじゃない。
可能性としては、ありうることだ。

来週の授業で使うディベートの資料をまとめている今、俺たちの意見の合わなさは致命的と言えた。
「お前はこの条件でもBが正しいと思うのか?」
「Bの意見以外に共感出来る訳ないだろ、常識的に考えて」
「俺の話聞いてた?Aに誘導しようって戦略だったじゃん」
「せこい真似すんな、Aは間違ってる」
「俺はAに共感してんだよ!」
「お前、いつも逆張りしてくるよな」
ため息を吐くな、やれやれって顔をするな!
俺は時計を見上げて残り時間を計算した。
「あと1時間で教室追い出されるぞ」
教室の窓の外では部活動に勤しむ生徒の声がしている。
「1時間もあるなら終わるだろ」
「お前がいちいちひっくり返さなきゃとっくに終わってたよ」
「間を取って、AとB並べてどちらが妥当でしょう?っていう問いにすればいいだろ」
「まあ、そうするしかないか……俺ら二人ですら意見割れてるもんな……」
俺はA4のプリントに丁寧に二つの主張を書き込んで、どちらが妥当だと思いますか?と太字で書いた。
「先生まだいるかなぁ」
「書道部の顧問だっけ?部室どこ?」
「向かいの棟の3階の端」
俺たちは立ち上がって荷物を背負い、プリントを持って教室を出た。
「腹減った。ラーメン食って帰らねぇ?」
「俺スイーツの気分なんだけど」
やっぱり俺たち、気が合わない。
「この、あまのじゃく!」
てくてくと先を行く背中に言葉を投げると、あまのじゃくは前を見たままひらひらと手を振った。

4/26/2023, 4:47:41 PM