芙雨

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たったひとつの希望

お兄ちゃん。
今までありがとう。
お兄ちゃんが作ってくれるごはん大好きだった。
いつも重い荷物持ってくれてありがとう。
私がお兄ちゃんのプリン食べても
笑って許してくれたりしたね。
自転車の練習も付き添ってくれて、
かけ算言えるようになるまで一緒に覚えてくれて、
小学生の間は一緒に登校してくれて。

ママいっぱい泣いてたよ。
お兄ちゃんが生きたいように生きろって
なんで言えなかったんだろうって
子供みたいに泣いてた。
パパは何にも言わないけど、
背中で泣いてた。
私もなんでいっぱいありがとうって
言わなかったのかなとか、
お兄ちゃんが勉強してる間
何も言ってあげられなかったのかなって、
今更しょうがないこといっぱい言って
人生で一番泣いた。

私、医学部目指さなくて良いことになったよ。
お兄ちゃんも、
私が「料理の道に進ませてあげなよ」って言ってたら
もっと早く楽になれたかも知れなかったのにね。
私は自分を守ってお兄ちゃんを見殺しにした。
お兄ちゃんどれだけ苦しかったんだろうって
ずっとずっと考えて、
でもわかったのは、私には理解できないくらい
辛かったんだなってことだけだった。
中学受験の時からずっと。
なのにお兄ちゃんいつも笑ってさ、
無理ばっかりしてさ、
私のこと殴ってでも生きてほしかった。
私のこと殺してでも生きててほしかったよ。

12年間、お兄ちゃんの妹でいられて良かった。
この先もずっと兄妹が良かった。
いつかまたアイス一緒に食べれるよね。
かけっこもできるよね。
お兄ちゃんは私の、
たったひとつの希望でした。
さようなら。
さようならお兄ちゃん。
いっぱいありがとう。
こんな妹でごめんなさい。
天国では料理をたくさん振る舞って、
色んな人を幸せにして、
私なんかすぐ忘れてください。
名前も今すぐ忘れて、
早く生まれ変わって、
もっと良い妹がいる家に生まれて、
料理人になってね。
さようなら。

3/2/2024, 10:58:02 AM