淡いピンク色の空間に色とりどりの花々。純白のドレス、同じく純白のタキシードを着た二人を讃えるかのように円卓が並ぶホール。その一つに私は座っていた。
眼前に広がる豪華な食事に周りの友人達は会話に花を咲かせながら舌鼓を打つ。私もナイフとフォークを持ちステーキの一切れにフォークを刺した。上等な肉なのだろう。刺した箇所から肉汁が溢れソースと絡まる。そのまま口に運べば甘い肉と酸味が効いたソースの風味が交わり広がっていく。
美味い。
生憎、ボキャブラリーが貧弱な私にはその言葉しか浮かばなかった。
視界の端では白い二人が仲睦まじい様子で食事をしている。微笑む姿は今このホール全体で一番幸せだと側から見てもわかるほどだ。
二人と私には深い深い溝があると感じた。
白と被らないようにネイビーのドレスを着てパールのアクセサリーを身に着け髪を上げ着飾り、美味い食事を楽しみながら埋まらない溝をこれでもかと味わう。我ながら忙しいなと自嘲した。
何かが違えば私も白に包まれあの席に座っていただろうか。そんな事を考えては頭を振る。考えても詮無い事だ、と。
意識を逸らすように目の前の肉に集中する。やはり美味い。美味しい物に罪はない。美味い物の前にはどんな言葉を並べても意味は無いのだ。そう思い込み、口内で纏わりつく脂を流すようにワインを煽る。美味い。美味いのだが、心の中で駄々をこねる幼い私は言った。
「帰ってビールと焼き鳥が食べたい」
今日はあなたの幸せを願いながら一人で呑みたい。それが私なりの祝辞であり、決別なのだ。
ハッピーエンド
3/29/2023, 1:24:09 PM