"お金より大事なもの"
寝る準備を終えベッド横のランプを点け、ベッドに入ると枕を背もたれにしてサイドテーブルの上の読みかけの本を手に取り、読書の体勢になる。
するとハナがベッドに乗ってきて、俺の腹の上に移動して喉を鳴らす。いつもの読書スタイルの完成。
初めはうるさく感じて読書どころではなかったが、今ではとても心地良い音。
本を開かずに、香箱座りで目を閉じながら喉を鳴らすハナの名前を呼ぶ。
「ハナ」
「みゃあん」
喉を鳴らしながら返事をして立ち上がると頬に擦り寄って、柔らかな体毛で頬を撫でてきた。耳の近くで喉の音が聞こえる。
「くすぐってぇよ」
くぐもった笑いを漏らし、肩を上げて片手でハナを撫でる。
──ふわふわで、暖かい……。
もしあの時、ただ扉の錠をかけるだけで立ち去っていたら。あの時、ハナが『ここに居るよ』と鳴いて教えてくれなかったら。
これまでも今も、こんなにも愛おしい感情で胸がいっぱいになる事はなかった。
ハナの頭に口付けをする。ハナの柔らかな体毛が、唇をふわりと包み込んだ。
唇をゆっくり離し、ハナを見る。
「みゃあん」
再び喉を鳴らしながら、俺の頬を舐める。
──こりゃ、また読書どころじゃねぇな……。
諦めて息を吐き、本をサイドテーブルに置いてハナを胸元に動かし包み込む。
すると、鳴き声を出さずに口を開いた。
その様に微笑んで、ハナを再び優しく撫でた。
3/8/2024, 2:56:41 PM