komaikaya

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「店長、お願いがあります」

「ん? 北野さん、なにかな?」

「わたしのバイト代から、『スマイル』分を差っ引いてもらえませんか?」

「……スマイル、分? えーと……え? 差っ引く?」

「だってわたし、同じバイトなのに……恩田さんに比べて、ぜんぜんスマイル出来てないじゃないですか」

「あー……まぁね、そんなこともあるだろうけど、それはこれから頑張ってくれればいいから、ね?」

「無理なんです、絶対! オーダー取るのも下げ物もちゃんと出来るって自信あるんですけど、スマイルだけは、わたし……どうしても、出来ないからっ!」

「えーと。なんでそんな、思い詰めてる感じ? ってか、店長のオレはそんなん指摘してないし、誰か他のスタッフに、なにか言われたとか?」

「そんなんじゃありません! スタッフの皆さんはいい人です、そんなこと言わないです!」

「あっハイ、すみません……でも、じゃあなんで」

「店長。恩田さんのスマイルがある日とない日で売り上げが違うのは、もちろんご存じですよね?」

「えっ? ……うーん、そんなに違うかなー?」

「恩田さん、帰りに必ず言ってます。『今日も忙しかったねー』って。正直わたしはそんなでもないことのほうが多くて、それってつまり、同じバイトなのに仕事量に差があるってことで……すなわち! 恩田さんにあってわたしにはないスマイル分、わたしがちゃんと働けてないってことじゃないですか!」

「……いや、待って? それはなにか違うんじゃ、」

「わたしだってちゃんとスマイルしなきゃ、一度はそう考えました。でも……無理なものは無理、わたしこの仕事で、あんなふうに笑えないっ。お客さんや店長の薄ら寒いオヤジギャグにも爽やかに微笑んでみせる、恩田さんみたくなれないんです!」

「や、無理して笑う必要、ないからね? それと、オレのギャグって、そんな?」

「無理して笑う必要が、ない……? じゃあ、それじゃあ恩田さんが、恩田さんのスマイルが報われないじゃないですか! あんなに売り上げに貢献してるのに!」

「っっ! よーし、北野さん、いったん落ち着こうかー? 北野さんのおかげで、恩田さんが頑張ってくれてることがよーくわかったからねー、うん。恩田さんの時給を、次の査定で充分考慮する、これでどうかなー?」

「……スマイル手当、導入していただけますか」

「っ、スマイル、手当?」

「恩田さんのためにも、ぜひ」

「あっ、あー……そういうのあったら頑張れるってバイトさん、多いのかなー? 北野さんももしかして、スマイル手当があれば励みになって、スマイル出来ちゃったりしてー?」

「わたしは、スマイル無しですね。本っ当に無理なんで、お客さんと店長の寒すぎて処理に困るダジャレとオヤジギャグ」

「北野さん……スマイルは無しでいいからね、けど言葉はもっとこう、オブラートに包んで欲しいかなっ泣」

2/9/2026, 2:14:30 AM