桜井呪理

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僕は売れ残り。

僕にも家族はいた。

海の生き物たちと心を交わすことが得意だった僕のことを、母はちっとも否定しなかった。

でも

そんな母はもういない。

重い病にかかり、あっけなく逝ってしまった。

僕を気味悪く思っている村の人は、僕を引き取ってくれなかった。

だから僕はここにいる。

僕は人の言っていることを理解するのが苦手。

僕は不完全らしい。

一緒にいたみんなは、嬉しそうに売却済みの札をもらい、いつの間にかいなくなった。

僕だけ、

僕だけが 不完全体売れ残りの札が剥がれない。

だから僕はここにいるんだよ。

僕はそう、池の魚につぶやいた。

この池は海に繋がっているらしい。

僕の話を真剣に聞いていた魚は、キラキラと光る、魚の尾ひれのようなものを僕に渡した。

また何かくれるの?

この前は虹色のビー玉二つだったよね。

そう小さく呟く。

魚は口を開き

一緒に行きましょう。

とつぶやくように、僕に近づいた。

なんとなくいうことがわかった。

魚のくれた尾ひれのようなものを履く。

そして

虹色に光るビー玉を、目に差し込んだ。

目が痛む。

目を瞑る。

そのまま

池に飛び込んだ。

目を開ける。

そこには、美しい人魚となった魚と僕がいた。

人魚は言う。

あなたが幸せだった時。

あなたはわたしを助けてくれた。

一緒に海の果てに行きましょう。

今度ははっきりと聞き取れた。

人間として不完全な僕でも、人魚としてなら、幸せをもう一回得られるかもしれない。

僕はそう思った。





この日

ある一人の少年が空に旅立ち、

二人の人魚が、海の底へ、潜って行った。

9/1/2024, 11:16:19 AM