【日常】
彼女が病んだ。
恋人である僕は彼女を支える。それが当然だ、普通だ。
だけど僕自身も膨大な仕事に押しつぶされていて、いつぶっ壊れるかわからない状態。
精神科にも月1で通って、薬飲んで何とか自分を保ってられている。
担当医には「もっと自分を大切にしなさい」なんて言われてるけど、僕は元々自分より他人優先の人間だから、「自分を大切にする」ってことが中々できない。
ぶっ壊れそうな身体に鞭を打って、大好きな彼女に会いに行く。
彼女の前では弱音を吐かないようにヘラヘラと笑った。
顔色を窺い、言葉を慎重に選んだ。
彼女の好きなもの、行きたいと言った場所、欲しいと言った物。全部出した。
貯金は馬鹿みたいに溶けてしまったけど、彼女の笑顔がまた見れるなら自分は大丈夫だと呪いのように言い聞かせ続けた。
ある日、僕は仕事で大きなミスをした。
以前から積み重なっていたものもあり、何処かへ消えてしまいたくなった。
公園のベンチに座り込み、スマホを握り締める。
「彼女の…声が、聞きたい…」
ここ2ヶ月近く、彼女から「忙しいから」と電話することを断られていた。
だから彼女に飢えていたし、誘いを断られる度にぐっとクるものがあった。
数十分迷った末、僕は勇気を出して彼女に電話を掛けた。
…だが、彼女が僕の電話に出ることはなかった。
数分後。
彼女から『ごめん』という一言。
『ここまで断られ続けると流石に辛い』と返すが、彼女はずっと謝るだけ。
謝って欲しかったんじゃない。僕は「大丈夫?」の一言が欲しかっただけなのに。
突然、プツン…と自分の中で何かが切れる音がした。
蓋をしていた感情が、涙が、洪水のように溢れて止まらなくなってしまった。
僕ばっか色々考えてやってるのが馬鹿みたい。
彼女に自分の精神削ってでも尽くしてきたのに僕には心配の一言すらくれない。
一体僕は、君の、何なんだ。
こうして僕と彼女の関係はギクシャクしてしまった。
翌日、冷静になった僕は彼女に謝罪の連絡をした。
本当は直接謝罪したかったが、彼女に今は会いたい気分ではないと言われたのと、僕もあまり精神状態的に会うとマズいのがわかっていたからやめた。
話し合いの結果、3ヶ月後に直接会って今後のことを話す、ということで話が纏まった。
過去にも何人か付き合ったことはあったが、ここまで好きになったのは彼女が初めてだから別れたくない。
だけど、彼女が僕のせいで苦しむのなら僕は消えた方がいいのだろうか?
そんなグチャグチャな感情が混ざり合いながら、「日常」を過ごす。
「彼女」という存在が消えた日常は氷のように冷たく、つまらなくて。
やらなければいけない膨大な量の仕事にも中々手がつかなくなった。
「…あと、2ヶ月か」
カレンダーをぼんやり眺め、酒に溺れる。
僕が変われば、彼女は見返してくれるだろうか。
僕の「日常」には、君がいないと駄目なんだ。
失った「日常」を取り戻すために僕は今日も自分を変える旅に出る。
6/22/2024, 12:16:34 PM