ざざなみ

Open App

『渡り鳥』

私は生まれた時から心臓が弱かった。
特別、死に関わるほどの状態ではなかったのでずっと病室にいないといけないわけではなく、運動を控えたり、激しい動きをしてはいけないとだけ言われていた。
それでも皆と一緒に遊べないのは子供ながらに悲しかった。
それでも周りの皆は理解してくれていたから生活はしやすかった。でも、それは小学校までのことだった。
中学に上がると行動が制限される私には友達が出来なかった。最初は皆仲良くしようという雰囲気だったけれど入学から数ヶ月も経てば、皆仲の良い友達ができはじめ私は遠巻きにされた。
こうまであからさまに避けられるとさすがに学校にも行きたくなくなり、私は入学してから一ヶ月で保健室登校になった。
そんな私と唯一仲良くしてくれたのは幼なじみの彼だった。彼は私が驚くほどに博識で色んなことを知っていた。
だから、彼と話しているととても楽しかった。
そんな博識でフレンドリーな彼の周りにはいつも多くの人が集まっていた。
言うなれば人気者だった。私はそんな彼が羨ましくて妬ましく思う時もあったけれど私にも優しい彼だったのでそんな気持ちは次第に消えていった。
ある時から私は“ 死にたい”と思うことが増えていった。辛い現実に心が疲れていたんだと思う。
そんな私に気づいたのか彼が唐突にこんな話を始めた。
『ねぇ、渡り鳥ってどうして定期的にあんな長い距離を飛ぶと思う?』
「えっ、それは生きるための食糧を探しに行くためでしょ?」
『まぁ、半分合ってるけど半分は違うかな』
「じゃあ、その半分は?」
『正確に言えば、食糧や環境、繁殖なんかの事情に応じて地域を移動するんだ』
「そうなんだ·····急になんでこんな話するの?」
『いや、単純にすごいなと思って』
「すごい?渡り鳥が?」
『だって、渡り鳥は生きるために自分たちの体力を削ってまで地域を飛び回るんだ·····そうそうできることじゃない』
「当たり前でしょ?生きるために必死なんだよ」
『そう、生きるために必死なんだ·····君はどう?』
「·····え、私?·····私は別に·····」
『君の考えていることぐらい僕にはわかる。もう何年も幼なじみやってるし·····君はそれでいいの?』
「それでいいって·····何が?」
『渡り鳥でさえ、日々を必死に生きているのに君は簡単に生きることを諦めるの?』
「·····だって、しょうがないよ。私はもともと欠陥品だもん·····こんな私と一緒にいたって楽しいと思える人なんていないでしょ?」
『·····僕はそうは思わない』
「·····え、それってどういう·····」
『僕は幼い頃から君を見てきたけど、君は今までどんなに辛いことがあっても我慢して生きてきたじゃないか。僕が君だったらもうとっくに生きることを諦めてた』
そういう彼は次に私が今まで一番欲しかった言葉をくれた。
“ でも、今までそうしなかった君は強い人だ”
その瞬間、私の目から涙腺が崩壊したかのように大粒の涙が溢れてきた。
彼はずっと私を見ていてくれた。私を強い人だと言ってくれた。
私は渡り鳥みたいに毎日を生きようとはできなかったけど彼には私の中の何かが響いたみたい。
だから、もう少しだけ彼のいるこの世界を生きてみようと思う。

5/29/2025, 12:49:47 PM