『フラワー』
ここは田舎のさびれた繁華街の端っこで、密やかにやっているスナックです。
オーナー兼ママの花絵さんと、源氏名「フラワー」でこの店に拾って貰った私の二人で頑張ってやっているお店です。
私の本名は、花咲葉菜、はなさきはな。58才。もうすぐ還暦です。
ママの本名は、岩山勝海、いわやまかつみ。46才。干支は同じです。
店の名前は「はな」。
ママは子供の頃から名前を見て男の子に間違われることが多かったらしいのです。宝塚の男役が似合いそうな高身長で濃い顔をしているので、何となく想像は出来てしまう。
そこで可愛い名前の店を持ちたくて「はな」というスナックを始めたらしい。それに歌が上手なのでカラオケを歌いたかったのでカラオケ設備のあるスナックを10年前に格安で購入したと言っていました。都会のホステス時代に資産家の老人と結婚して、10年も立たないうちに死んじゃって、資産をそれなりに貰って、自分の田舎に帰って来たらしいのです。
今から5年前、死ぬ場所を探してこの田舎に流れてきた私を諭して、ここで働けって言ってくれた命の恩人。12才も若いけど、性格は男らしくて面倒見の良い姉御肌。
小さなお店ですが、花絵ママの歌声と、私の占いでそこそこ繁盛はしていました。
私の占いは自己流でほぼ詐欺のレベルですが、占いが好きで、手相の本は何冊も読んでいて、タロットカードも好きで、占いの真似っこをしてキャバ嬢時代は少し人気がありました。
まぁ、私を口説こうと来店する殿方はほとんどいないので、私は店の隅で、花絵さん狙いの客の暇つぶしと仕事や家庭の愚痴を占うフリをしながら聞く係です。
最近は人生相談のような感じの若い女性のお客もいて、その女性狙いの男性も来られて、さびれた田舎の繁華街のお店としては、別世界の雰囲気で夜ごと盛り上がっていました。
ある夜、41才の細身で地味だけど装飾品や服は高価そうな物を見に付けた綺麗な女性が私の占い目的でスナック「はな」に来られました。
友達に紹介されたと言われましたが、その友達の名前は言われなかった。
そして、結婚相手に不安があるのでその結婚をしてもいいのか、やめた方がいいのか、それを占って欲しいとのお願いでした。
こういうときは、背中を押してほしい方と、踏ん切りがつかないのでハッキリと別れろって言ってほしい方がいる。分かるのは、占いに来られた時点で自分の中の結論は出来ていて、あとはその根拠がほしいだけなのです。それを私は間違わずに伝えてあげなければならないのです。
テクニックとしては、質問を何個かします。
この反応と答えから感情を読み取ります。
結論から話しますが、私は判断を間違えました。
女性は明らかに結婚を嫌がっていました。断る口実が欲しかったはずです。
だから、お互いが不幸になるので別れられたらその方がいいと言いました。
そう言うとオドオドしだして、
「私は結婚したいのです、しなくては駄目なんです。不幸になるとか言わないで下さい」
そんた風に言って号泣するのです。
はてな?
なのです。絶対に結婚は嫌がっているはずなのに、結婚しないといけないと言う。つまり私に結婚しろって背中を押してほしかったようなのです。
よく分かりませんが、いろんな事情があるのでしょう。
彼女が帰ったあとで気づいたのですが、ダリアの花の刺繍がされた白いハンカチを置き忘れて帰らたのです。
そして1週間後、来客の一人が妙なことを言い出したのです。
ある資産家の老人が介護に来ていた女性と再婚したら、その翌日に亡くなったらしいのです。遺書があり、子どもたちではなく妻に全財産を渡したいと書かれていたそうなのです。
その家の庭には大量のダリアが育てられていて、別名、ダリア屋敷とも言われているらしいのです。
そこで、あのダリアの刺繍のハンカチを思い出しました。
私の知らない登場人物がいる。
そして、私の客だったあの女性が噂の人なら、大変な事件かもしれないと思いました。
明日はお店をお休みして、確かめに行こうと思う。
「フラワー、もう犯人が誰かも、動機も、理由も、分かっているんでしょ?」
「たぶん、ぜんぶ」
「あんたは、わかっちゃうんだよね、もしかしたら、あんたの昔の活躍を知っていて、この店にあの女性は来たのかもしれないわね、だって、念押しするみたいにハンカチを置いて帰ったから」
「なんで、ここにいることが分かったのかな?」
「まあ、あんたの大事だった人の田舎なんだから、探すのはそんなに難しくないよ、探偵にでも依頼すればすぐよ」
私の過去も、事件の真相も詳しくは今は語りたくありません。
明日は早朝から出かけるので、今夜は早めに仕事を終えて、早く眠ろうと思います。
また会う日まで。
【終わり】
4/7/2025, 1:58:32 PM