シャイロック

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やさしい嘘

 私は嘘をつけない体質だ。小さな嘘をついたとき、親に「嘘ついただろ、鼻の周りが白くなってる」と言われて以来、トラウマになっている。
 どうも、嘘をついたことで血の気が引くと、鼻や唇の周りが白くなってしまうらしい。血の気が引くところが小心者なのだが、親の前では非常に緊張していたから、嘘を付くなんて自分にとっては一大イベントだったのだ。
 さて、そんな私が嘘をついたのは大学の時。通信教育だったので、1つ上の従姉妹のアパートに、スクーリングの期間中居候させてもらっていた。
 実家で押さえつけられて暮らしていたので、その期間だけが唯一私の青春だった。彼女とお風呂屋さんに行ったり、大学同士が近かったので、待ち合わせてどっちかの学食でランチをしたり、彼女のゼミの飲み会に参加させてもらったり。
 その朝、アルバイトの合間を縫って、従姉妹が実家に帰る日だった。「葉月ちゃん、行ってくるね」と言う彼女に、私は手を振って「行ってらっしゃい」と見送った。
 朝から身体がだるく、高熱が出ている自覚があった。実は、スクーリングに出発する数日前、小学生だった弟が風疹にかかった。私は20才になっていたのでまさかと思っていたが、感染していたのだ。
 だけど、東北の実家に帰るのに、彼女は、切符を取り、地元での予定を入れ、親への土産を買ってある。病気のことを言ったら、やさしい彼女は、帰郷を取りやめるかも知れない。
 嘘をついたワケではないが、何も言わないことが嘘だったと思う。言わないから、鼻の周りも白くならなかった(笑)
 彼女が帰ってくるまでの間、たいへんだったのだが、それはまたの機会に。

1/25/2025, 2:57:22 AM