いぐあな

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300字小説

新鮮なお代

 人気の無くなった夜の通りから女性が薬店に入ってくる。
「子供が熱を出しました。お薬を頂けないでしょうか?」
 心配げに頼む女性のスカートの裾から茶色の尻尾が見え隠れする。彼等に果たして人の薬は効くのか。病状を聞くと熱はそこまで高くないらしい。
「微熱ならビタミンを取って、暖かくして寝るのが一番だよ」
 リンゴとみかん、使い捨てカイロを袋に詰めて渡す。
「お代は良いから、これを持ってお帰り」
 女性は何度も頭を下げて店を出ていった。

 数日後、店を開けるとシャッターの前に、女性に渡した袋が置かれていた。
「……ワカサギか。子供さん、治ったようだね。ありがとう」
 新鮮なお代に礼を言う。朝霧の中、小さな足音が去っていった。

お題「微熱」

11/26/2023, 11:45:57 AM