壁に今日のカレンダーを刻む。
この星に不時着してから、地球の標準時間で278日目。
狭い操縦席の右壁にはもう線を刻むスペースがなくなってしまい、先週からは左壁にナイフを突き立てている。
これだけの期間が過ぎてまだ誰もやってこないということはつまり、シャトルの墜落前に発信した救難信号は結局どこにも届かなかったのだと推測する。
乗組員も、89日前に最後の一人が死亡した。
今際の際の人間が「助けが来るまで諦めないで」と囁いたために私は自動静止機能をロックされてしまい、こうして宇宙船の中で佇むだけのアンドロイドになった。
新たな指示もないため何もする事がない。
ただ、彼が最期まで行なっていた業務を引き継いで壁に一日一本の線を刻んでいる。
船体のソーラーパネルを照らしているこの星系の太陽は、毎日充分以上に蓄電可能な光量を持っている。
そして計算上、私の体内パーツが経年劣化により駆動停止するまで、少なくともあと170年は所要される。
私が言うべきことか分からないが、最後に残った者が感情のないアンドロイドでよかった。
水も、空気も、希望も、話し相手がなくともよい。
絶望すら不要のまま生き続けられる存在だから。
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カレンダー
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所感:
たすかってほしいという願いの叶いかた。
9/12/2023, 9:02:26 PM