光合成

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『冬の足音』

彼女は小動物みたいな人だった。
小柄で、柔らかくて、コロコロと変わる表情と寒いのが苦手なところが可愛らしかった。
12月に入るとモコモコのパジャマに毛布に包まり始める。それを見る度に、今年も冬が来たなという気持ちになった。
反対に僕は寒さには強い方で、体温が高めなのをいいことに彼女はいつも僕から温もりを奪う。

去年の冬、一緒に雪合戦をした日があった。
運動神経のいい僕の方が有利かと思いきや、彼女は意外と雪の中も俊敏に動き、最後は相打ちとなって引き分けた。そういう所も、小動物みたいだった。
真っ白な雪の上に2人で寝そべる。
空は快晴で雲ひとつない冬の空。
夜には月明かりが雪に反射して世界は銀色に輝く。

寒さに弱いくせに、彼女は冬が好きだった。
そんな彼女が好きな僕も冬が好きだった。
冬が近づくと胸が踊った。

彼女は今年もモコモコのパジャマを着て、毛布に包まる。守りたくなるような、そんな可愛らしい姿。
お揃いで買ったマグカップにはマシュマロ入りのココアが注がれている。あのマシュマロは僕が彼女のために買ったものだった。

「寒いなぁ」と彼女が言う。
僕が温めてあげようと手を伸ばす。
繋がれるはずの指先はそのまま空を切った。
「なんでだろ」そう言って俯く彼女の頭を撫でようにも触れられない。
大丈夫、ここにいるよ。
そんな声も届かない。
次から次へとこぼれ落ちる涙を拭うこともできない。

今年も冬の足音が近づいてくる。
僕はもう、彼女を温めることはできない。
寒い、寒い冬が来る。


2025.12.03
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12/3/2025, 10:17:16 AM