七瀬奈々

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 滅多に自分を見せない人がいる。
 どこに住んでいるのかも知らなくて、どこからかフラッと隣へ現れてフラッとどこかへ帰る、不思議な人。
 それでもその人のことは友人だと思ってるし、なんなら1番の友人だと自負している。職場以外であの人が他人と話している所を見た事がないからだ。


 イブの夜はもちろん予定がある。だけど今日はどうしてもその人に会いたくて、お気に入りのいつもよく会うバーに入り浸っていた。自分はこんな時に何をしているんだ? と我に返りそうにもなったが、強めの酒を煽って耐えた。
 だけど一向に来ない。もう予定の時刻が迫っている。この時間にはいつも来ているはずなのに。連絡先くらい交換しておけばよかった。やっぱり予定があるのか? 誰と……

「あれ、君何してるの」

 入口の方から声が聞こえた。そこには、いつも通りの格好で、いつもより驚いた顔をしたその人が立っていた。勢いよく振り返ったせいで少し首を痛めたけれど問題ない。

「やっと来てくれた……どうして今日はこんなに遅かったんだ?」
「いや、今日は誰もいないだろうから来るつもりは無かったんだよ。暇だから来てみただけで。ところで何か用でもあったの?」
「あっ、そういえば」

 そう言われて目的を思い出す。会えた安心感で忘れていた。反対側の席へ置いていた鞄から、ある物を取り出した。

「これ、クリスマスプレゼントです。お世話になったから、どうしても渡したかったんだ」

 青と黄色で綺麗にラッピングしてもらった箱を渡す。中身はよくある実用品だけど、数日前から悩みに悩んで選んだものだ。きっと気に入ってくれるはずだ。
 受け取った時、その人はほんの少し驚いた顔をして、またいつものニコニコとした表情に変わった。

「クリスマスプレゼント? 選んでくれたの?」
「そうです。中身はそう大したものではないけど」
「あはは。何でも嬉しいよ、ありがとうね」

 なんだか全部が報われた気がした。本当はこのまま雑談でもしたかった。だけど同じくらい大切な人との予定が入ってて、これ以上の滞在は厳しそうだ。
 その事を伝えると、少しも不快な顔をせずに送り出してくれた。

「こんな日に時間を作って会いに来てくれたのも嬉しいよ。また今度、ゆっくり話そうね」
「ありがとう! また今度、約束ですよ」
「うん。良いクリスマスを」



お題:イブの夜

12/25/2023, 9:21:55 AM