あの日の景色
まだ大事な人を失っていないから
戻りたくても戻れない、思い出すだけのあの日の景色
が私にはない。
わたしが思い出すのは
学生時代の日常の景色だ。
車がまだなくて、自転車を漕いだ通学路。
講義の7分前に目が覚めたときは文字通りの爆走をしたっけ。
春になると咲く道沿いのハナミズキの美しさには1年の重みを感じる切なさがあった。
大学の講堂、毎日通った図書館
研究室に漂う純粋な学術の空気が懐かしい。
知り合いの学生が働く食堂の安っぽさに、
帰り道に寄る勝手知ったるスーパーの食品売場。
一日の終わりにたどり着く6畳の狭いワンルームは、自分だけの特別な城だった。
スクランブルエッグをのせたトーストや、3日はアレンジが利くカレーライス
週に1度回す洗濯機に、出窓部分に取り付けた部屋干し用の物干し竿
あの頃の生活は自分だけの力で回していたように感じるけど、地元の親の経済支援がなければ叶わなかった。
一日一日を丁寧に過ごしたあの頃の景色は鮮明だ。
今はどうだ。
仕事中心で、家事は100%家族頼みだ。
半分沈んだバランスの悪い船を漕いでいるみたいだ。
戻りたくても戻れないあの頃の生活
7/8/2025, 10:37:22 PM