『子猫』
俺は、黒猫。誰とも群れず、ただ一匹で過ごす、孤高の野良野郎だ。今日も俺は、夜に一匹だけで住宅街を歩く。夜の散歩は、俺の日課なのだ。
「……んっ? 何だ、この茶色いのは」
住宅街にある空き地に行くと、茶色くて四角いものが置いてあった。何か書いてあり、近づく。読むと、『ひろってください』とあった。
「……だれかいるの?」
突然、茶色いものから細い声が聞こえてきた。茶色いものの上に両手を添えて覗くと、毛並みが綺麗な白い子猫がいた。
「お前、捨てられたのか」
「なのかなぁ。きづいたら、ここにいたの〜。おにーさんは?」
「俺は野良猫だ。ここら辺をいつも歩いてる」
「へぇ。……ねぇ、ここにはいって」
白い子猫が小さい手で隙間をとんとんと叩き、俺を誘導してくる。
「断る。俺は群れるのは嫌いなんだ」
「やだぁ。はいってよ〜」
「断ると言っているだろ」
「や〜だぁ〜!」
俺が断っているのに、白い子猫はごねる。入れ入れと、結構しつこい。
「あー……ったく。分かったよ。入りゃいいんだろ?」
俺は面倒に思いながらも、中に入る。俺の身体と白い子猫の身体の面積を合わせると、中の隙間がほとんどなかった。
「おい、こんなんでいいのか?」
「いいよ〜。んふっ、おにーさん、あったかい〜」
すりすりと頬で俺の身体を撫でて、幸せそうにしている白い子猫。
「……お前、俺の身体で暖をとってるのか」
「だん? それ、なぁーに?」
「……あったまってんのか」
「えへへ。おにーさん、みたときからあったかそうだったから〜」
どうやら、俺は利用されたらしい。――ちくしょう、やられた。ガキのくせに、やりやがる。
「ねぇ。おにーさんについていってもい〜い?」
「やめろ」
「ど〜して? わたし、おにーさんとなかよくしたいよ〜」
「群れるのは嫌いだ。人間とも、同族とも」
どいつもこいつも、誰もが俺の事をいじめてくる。人間は小石を投げてくるし、他の猫は引っかく。俺は、嫌われ者なのだ。
「……おにーさん」
白い子猫が、俺に声をかける。何だと顔を向けると、白い子猫が俺にちゅっと触れるだけの口づけをしてきた。
「……んふふ。わたし、おにーさん、すき」
白い子猫は、そう言ってにへらと笑う。なっ、なんて事をするんだ、このガキは!
「……っ、俺は出る」
なんか心がバグでも起きたかのように熱くなり、すぐに外へ逃げた。そうしたら、白い子猫がとことこと歩いて、ついてきた。
「なんでついてくるんだ」
「おにーさんといっしょにいくの〜」
「やめろ。俺は行かない。戻れ」
「やだ。だいすきなおにーさんと、いっしょがいい〜」
何を言っても、白い子猫は戻らない。結局、白い子猫は俺のそばから離れずに、野良の道を選んだ。
「……いやぁ。あの時が懐かしいね」
「そんなの、忘れた」
「もう。相変わらず冷たいなぁ〜」
「うるさい」
「んふふ。私はずっと、あなたを愛してるよ〜」
「……俺もだ」
11/15/2024, 2:32:29 PM