【砂時計の音】
家族を守るため、私は魔法少女になることを望んだ。
六年前に現れた『世界の敵』に対抗できる存在。
幸い、私には適性があって契約主から力を得られた。
致命的な損傷を負わない限り、永続的に戦える。
変身可能時間は個人差があり、私の場合は約三十分。
これは平均よりもわずかに長い時間だと聞いた。
変身には多くの制限があり、代表例がクールタイム。
変身時間が二倍なら、クールタイムも二倍になる。
変身中は魔法を使えて、身体能力が大幅に向上する。
ただ、それは限界を超えた力を無理に引き出す行為。
ゆえに頻繁な変身は命を削ることになってしまう。
でも、この力があれば家族を守ることができる。
そう思っていたのに、私は家族を見殺しにした。
踏み潰される様を見ていることしかできなかった。
敵が現れた肝心な時に、クールタイムだったのだ。
あの魔法少女が私だったら、必ず助けられたのに。
悲しみを振り払うように異形の敵を蹂躙し続けた。
度重なる変身と戦闘に、身体が悲鳴をあげている。
「また行くのか」私に力を与えた契約主が問う。
「何か不利益がありますか?」振り返らずに答えた。
守りたかった存在を失い、生への執着も無くなった。
それでも私が戦えば、誰かの大切な人を守れる。
だけど、私が守る必要があるのかと考えてしまう。
瞬間、油断した。敵の撃った一筋の光が腹部を貫く。
こんなところで倒れている場合ではないのに。
それなのに、身体はピクリとも動かない。
騒乱の中、幹部らしき人型の敵が静かに歩み寄る。
……ああ、私は。終わりを悟って、瞼を下ろした。
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────── 別の視点の話 ───────
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【砂時計の音】Another Side
素晴らしい潜在能力を持つ少女に力を与えるべきか。
少女は、家族を自分の手で守りたいのだと言う。
同じだ。僕も家族を守るため、こちらへやってきた。
僕は組織からの離反者。侵略よりも平穏を望む者。
『世界の敵』には戦闘員と非戦闘員がいる。
戦闘員は、知能のある人型と人工的に作られた異形。
非戦闘員は、人型のうち強い戦闘力を持たない者。
僕は強大な力を扱えないために非戦闘員だった。
上の決定には異を唱えられず、始まった侵略行為。
研究員として従事する中で大きな発見があった。
どうやら力は適合者に与えることができるらしい。
正確には、譲渡ではなく貸与という形になるが。
戦力が拮抗すれば上も侵略を断念するかもしれない。
そうなれば戦闘員にされた弟は死なずに済む。
そんな思惑から、僕は敵である人類の側へ寝返った。
君はきっと僕の希望になる。利用するつもりだった。
想像以上の働きをする君の、家族の訃報が届いた。
それから、君は明らかに無茶をするようになった。
「また行くのか」見ていられなくて声を掛けたのに。
「何か不利益がありますか?」振り向きもしない。
僕の力は、他の奴らが与える力とは性質が違う。
偶然、発現した人類の模造品とは比べ物にならない。
デメリットも大きいから休息が必要だ。もし怠れば。『敵』の間近、反動と致命傷で君が地面に倒れ込む。
血の気が引いた。僕の命が尽きれば、君は力を失う。
だけど戦えなくなるだけで、命までは失われない。
衝動のままに駆け出した。不思議と気分は悪くない。
君が壊れるぐらいなら、僕は喜んでこの手を離す。
10/18/2025, 3:16:04 AM