仮色

Open App

【自転車に乗って】

習慣とは怖いもので、家に誰もいなくても行ってきます、と勝手に口が言ってしまう。強いて言うなら家にでも出掛けることを伝えているのだろうか、と思うが、自分のことなのに明確に分からないのだからどうしようもない。

あ、自転車の鍵持って来るの忘れてた。

触り慣れていない家の鍵を使って、上下を間違えながらやっと鍵を二個全部閉めたというのにまた開けないといけない。先ほど学習した自分の手は、今度こそ一回ですっと鍵を入れることが出来たのがまだ喜ぶべきことだろうか。
がちゃ、と閉めた時とは少しトーンの違う音が鳴って扉が開く。再び踏み入れた家の中はシンとしていて、奥に猫がごろんと寝転がっているのがちらっと見えた。耳が動いているから、多分起きてはいるんだろう。
玄関のすぐ横に置いてある自転車の鍵を取る。こんな見えやすいとこにあるのに度々忘れてしまうのは、私の頭が学習をしてないからなのか。
記憶力が無いってことじゃないとは思うんだけどな、成績が悪い方でもないし。

「じゃ、行ってきまーす」

さっき家に一回言ったのなら今度はと、そこにいる猫に出掛けることを伝える。
再び外に出て、鍵を閉める。先ほどはあった雲が風で吹き飛ばされたのか、太陽の光が肌を焼き付けてきた。やばい、日焼け止め塗ってない。
出来るだけ早く日陰に行ってしまおうと思い、扉を軽く引いて鍵が閉まっていることを確認してから自転車を置いている場所の方に小走りで向かう。お姉ちゃんの自転車が微妙に邪魔なところにあったので、倒さないように気をつけながら退けた。

自分の自転車に近づいて、取ってきた鍵を差し込んで回す。自由になったタイヤを確認して、自転車に乗れる場所まで引っ張り出した。途中お姉ちゃんの自転車にぶつけてしまったが、傷は付いていなそうなので別に気にしないこととする。
ちょっと時間やばいかもな、と思いながらサドルに座った。ジブリみたいに片足をペダルにかけただけで走り出せられればいいが、生憎そんな技術は持ち合わせていない。真似したとて転けて怪我をするだけだろう。

じりじりと太陽光に焼かれる思いをしながら、自転車で走り出した。
風が生温くて、一週間に一回はテレビで見るようになった地球温暖化を肌で感じる。今はまだ我慢すれば活動は出来そうだが、五年後十年後はどうなっているのだろうか。その時にはもう学生じゃないし、自転車に乗ることもあんまり無いだろうから別に気にしなくてもいい気もする。

時間、間に合うかな。ちょっと急ぐか。
座り漕ぎから変更して、立ち漕ぎになる。間に合えばいいな、怒られたくないし。
そんなことを考えながら、ペダルに乗せている足の力を入れた。

8/14/2024, 11:06:17 AM