空覚えの記憶を手繰り寄せたことはあるだろうか。俺はある。小学生の頃、何年時の担任かは忘れたが、クラスメイト全員にある宿題が出された。
その内容は一番古い思い出を作文にするというもの。先に言っておくと、俺が書いたものは担任が眉間に皺を寄せるくらいに、阿呆らしいものだった。
『一羽、『無人島に行くならば、おれは家族の醤油と塩と砂とうを連れていきます』のこの部分で出てくる、醤油と塩と砂糖ってのは?』
『おれの家で飼ってるねこだよ。他に、生がとわさびもいるけど、あいつらはおれのこと噛むから入れない』
ふとここで思い出したが、確かこの時の宿題で生姜と山葵への愚痴を三行以上で書いた気がする。
ただ何を書いたかは覚えていない。最初にも言った通りこれは空覚えの記憶だ。
『──一羽はこいつらのこと大好きなんだな』
自分に都合の悪い部分は既に消えているのだろう。先日旅立った生姜と山葵は、先住猫だったこともあり、醤油と塩と砂糖は暫く元気がなかった。俺もまた同じく、少しだけ寂しいと思った。今になってあの頃を惜しむ姿を、彼らは空から見ているのだろうか。
いや、俺が書いた作文の馬鹿らしさにいつも通り欠伸を描いてるかもしれない。だからあの二匹が好きだったのだと思う。瞼に窓硝子越しの日が当たる。直後に濃いであろう珈琲の香りも添えられる。
「ま、あいつら緤と同じでツンデレだからなー」
「あ?」
突然の俺の発言に、ドリンクバーの方から戻って来た緤が相変わらずの目付きで見下げてくる。それに不快感はない。寧ろ俺の心は弾んでいる。
思い出す限り俺はツンデレが大好きらしい。実際、隣に座った彼もツンデレだから間違いないだろう。
「ねー、緤。無人島行くなら何持ってく?」
「知るかよ、自分で考えろ」
「えー、俺は緤に聞いてるのに」
ともかく好みは変わらないらしい。それを知れただけ今は良しとしよう。そういう事でこの話はお終い。俺は短く心で独り言ちてから、漸くテーブルの珈琲に手を伸ばすのだった。
お終い
『冷たいシンデレラ』より二方一羽の話
10/23/2025, 1:19:29 PM