⚠書き忘れたお題の話も載せました
お題「ほしのかけら」
「ここまでにしましょうか」
ウィルの言葉にサルサはそっと息をついた。
「意外と覚えが良いですね」
「ありがとうございます……。せっかく教えて頂いてるのに全く頑張らないというのもダメだと思いまして、復習もしてるので……」
「……だから昨日も今日も起きるのが遅かったんですね」
「う……すみません…………」
顔を下げて申し訳なそうな顔で謝罪した彼に向かってウィルは眉をひそめた。
「…………別に大丈夫ですよ。七時までに起きればいいんですから。……夜更かししてまで復習してるのはあまり褒められたことではございませんがね」
「すみません……」
「謝って欲しいわけではないのですが…………」
ウィルはそう呟いたあと、若干の時間考えてから微笑んでからカレンダーを見つめて言った。
「今日は……よし。サルサさん、外に行きましょう。今日は特別な日ですから」
「……え?」
サルサの困惑した声に全く構わずにウィルは立ち上がった。
「文献を片付けてきますから、その間に支度済ませておいてくださいね」
ウィルはそう言いながら微笑んだのに、何故か若干の圧を漂わせていて、サルサはさらなる困惑と抗議の声を飲み込んで大きく頷いた。
魔界の季節というものは人間界とは全くもって準じて居らず、気温は一年中十五から二十度、人間界で言うところの秋頃の温度であった。雨も晴れも曇りも雪も全てデウスの思い通りであり、晴れが好きなデウスのおかげで一年のうち九割ほどは晴れていた。雨が降るのは作物を作っている場所だけである。
そんなわけで空は青い月が欠けることなく光り輝いていて、満天の星空であった。
「……月、人間界のよりも明るい気がします……」
「そりゃあ人間界のは自分で光り輝いてないでしょう。こっちのは恒星といって、月自体が光り輝いてますから」
「そうなんですか……」
「そうです。まぁ、今日は消えますが」
「…………え?」
ウィルの声に困惑しながらサルサが空に目を向けると、月が段々と光量を失って、空と同じ色になってしまった。
「………………………………え?」
「……今日は、特別な日ですから」
ウィルは微笑みながら、でも全くサルサには目を向けずに空を見つめた。
そのまま二人で月が無くなって星だけになった空を見続けていると、ウィルが突然口を開いた
「…………そろそろ来ますよ」
「何がですか……?」
「…………そうですね。流星群の『この世界バージョン』と言ったら分かりやすいでしょうか」
「…………え?」
サルサの声と同時に星が空を流れ始めた。白い星が次々と流れていく。
「わぁ、キレイ…………って、痛い」
サルサが見とれていると、コンっという音とともに何かが頭に当たった。
「…………なにが、落ちてきて…………?」
地面に落ちたそれを拾い上げるとキレイな白色をした、角が丸くトゲトゲしたものだった。
「なんですか、これ…………」
「『星のかけら』です」
「星の…………かけら……?」
「はい」
頭に疑問符を浮かべた彼に対して、特に何とでもないかのようにウィルはそう答えた。
「星のかけらです。落とさないと増えていくんですよ、星って」
「…………え?」
全く分からないといった様子で聞き返したサルサに構わずにウィルは手を出した。そうすると、一つの星のかけらが彼の手に吸い込まれるように落ちてきた。今度は赤色だった。
「……赤色ですか」
「いっぱい色ありますよ。一番多いのは黄色ですけどね。やはり星といったら黄色でしょう?」
若干弾んだ声でウィルはそう言ったが、サルサは困ったような顔で質問をした。
「…………どういう原理で落ちてるんですか」
「……デウス様が落としてます。『魔法のような力』でね」
「…………増えるんですか?」
「空だと増えます。人間界の星だといずれ星は死ぬのでそんなに爆発的に増えることはないんですが、この世界だと死なないんですよ、星が。でも、増えるんです。一日に五から六個くらい。だから一ヶ月に一回くらい落とさないと空が星で埋まってしまって月が出れなくなってしまいますからね」
「…………すごいですね」
空からは星が流れながらたまに落ちていく様子が見えた。サルサが両手を伸ばせば、コロンコロンと何個かのかけらが飛び込んできた。ほぼ全て黄色だったけれど、一つだけ虹色だった。
「……虹色?」
サルサが不思議そうな顔で言うと、ニコニコと微笑みながらウィルは拍手をした。
「レアです。よかったですね。一個しか落ちないから大事にしてくださいね」
「…………どうしたらいいんですか」
「飾っておいてください。要らないなら、今度城下町に向かう時に加工店で加工してもらうなり、換金するなりしましょうか」
「加工……?」
「アクセサリーとかにです。今度行きましょうね」
ウィルは優しく微笑んでまた空に向き直った。
空の流れ星はまだまだ勢いを弱める様子はなくて、たまに星を落としていた。
お題「未来への鍵」
「今日は休みにしましょう」
朝の六時きっかりには顔も洗って制服も着ていたサルサに向かって、無慈悲にもウィルはそう言った。
「…………え」
「一番最初の日に教えましたがエレベーター以外に階段もあるのでご自身の足で行けるところには行って大丈夫ですが、くれぐれも城内からは出ないでくださいね」
「は、はい…………」
サルサが困惑とともに頷けばウィルは微笑んで去っていた。
こうしてサルサは突然休日を手にしてしまった。
『ご自身の足で行けるところには行って大丈夫』なんて言われたものの、城内はとてつもなく広い。働いてる職員数が人間界の城と比べれば桁違いに多く、さらにその人たちが全員城内に住んでいる。つまり、階数も部屋数も半端じゃないくらいに多いのであった。
サルサが住んでいるのは二階であり、外である一階に出るのは一見とてつもなく楽そうに見えるが、エレベーターならばすぐにあるものの、階段は階の端に一つしか存在せず、サルサの部屋は真ん中であったため、階段の方へ向かうのも一苦労、といった感じであった。
とりあえずどこかに、と思い立って階段へと向かったはいいものの、そこから階段を登る気をほとほと無くしてしまった彼は、ため息をつきながら階段の近くにあったベンチに座り込んだ。
「…………広い」
そう呟いた声は心底疲れたことが感じ取られるほどに吐息混じりであった。
「…………あれ、もしかして〜『供物くん』じゃない?」
そう言われてサルサが顔をあげれはそこに立っていたのは、サルサをこの世界に連れてきた少女、アリアだった。
「……供物って呼ぶのダメって聞きました」
「ウィルはね、頭硬いからさ。臨機応変に対応すりゃーいいし、私くらいになれば上の人じゃなきゃ黙らせることだってできちゃうしね〜」
あっけらかんと言ったアリアはサルサの隣に腰掛けた。
「口調、違いません?」
「……なまいきだな〜。オフみたいなやつだよ。偉そうにするのも畏まるのもどっちもめんどくさいじゃん?」
「…………ボクには分かりません……」
申し訳なさそうな顔になったサルサに対して若干慌てた様子でアリアは一つ咳払いをしてから口を開いた。
「勉強は順調?」
「…………多分」
「あはは、ウケる。多分か〜。まー、そんな簡単に分かりゃしないか〜」
「……どこまで言ったら順調と言えるか、分からないだけです」
「そりゃそうでしょ。そんくらい分かってるよ?」
アリアは軽い調子で言ったあとに微笑んだ。
「……名前、なんていうの?」
「あ……サルサ、って付けていただきました……」
「いい名前じゃん♪ デウス様命名なんでしょ、いいな〜」
「……いいんですか?」
「人間にとっても神様だけど、私たちにとっても神様だからね〜」
アリアは嬉しそうに微笑んでから立ち上がった。そのままサルサの方に向き直って手を取る。
「キミがもーちょい偉くなったら私の下になるんでしょ? 楽しみにしてるからね〜」
嬉しそうに言ったアリアはポケットから小さい小物を取り出してサルサの手に握らせた。
「……なんですか、これ」
「これはね、黒の星のかけらで作ったキーホルダー。なかなか無いものなんだよ」
「……頂けるんですか」
「うん、あげる。これはね、そーだな……キミの『未来への鍵』だよ」
「どういうことですか?」
「鍵なんだよ。これはね、特別なものだから」
アリアはそう言って笑うと、ヒラヒラと手を振って去っていった。
黒い光を鈍く光らせたキーホルダーは、なんだか少しだけ怖く見えるようだった。
お題「あたたかいね」
「……はぁ」
小さくため息をついたサルサに対してウィルは彼の顔を覗き込んだ。
「…………どうかいたしましたか?」
「え、あ、その……」
サルサは若干目を泳がせながら言った。
「………………寒いなぁ……と」
「……寒い、ですか」
外の気温は二十度近く。とてもじゃないが寒いという気温では無い。しかし、なんとなく寒気がするのは確かであり、事実、今日はサルサの隣の隣の部屋である第十二会議室にて、氷系の『魔法のようなもの』の開発会議みたいなことをしていた。その冷気が周辺の部屋にまで届いてしまってたのである。
「…………そうですかね……?」
しかし、ウィルは全く気づかなかった。氷系の『魔法のようなもの』の冷気は基本的にそこまで強くなく、またその会議はわりとしょっちゅうやっていることから、完全に慣れてしまっていたのだ。
「…………ウィルさんは寒くないんですか……。すごいですね…………」
カタカタと小さく震えながらへにゃっとした笑顔を見せたサルサの顔を見つめたウィルは小さくため息をついてから立ち上がった。
「少々お待ちください。それから……少しだけ洗面所を借ります」
「…………? はい、どうぞ…………」
首を傾げ困惑した様子のサルサに対して一礼をしてから洗面所に消えていったウィルはしばらくして赤いコップを二つ持って帰ってきた。
「あれ、それって……」
洗面所にあるうがいの時に使っているコップと酷似していたことから困惑した声を上げたが、ウィルはテーブルの上に置きながら小さく微笑んだ。
「ご心配なく。使っていたものではなく増やしたものです」
「ああ……!」
「中に入ってるのは暖かいミルクティーです。水をお湯に変えたものに粉末を混ぜました。つまり…………あ、貴方にはまだできません」
「まだ……?」
「いずれできるようになります。我々が使っているのは魔法ではなく『魔法のようなもの』なので」
ウィルは小さく微笑んでコップに口をつける。
「ありがとうございます……」
サルサも小さく呟いてからミルクティーをすすった。
暖かい湯気が上がっているミルクティーは、すごい熱いわけでもぬるいわけでもなく、ちょうどいい温度をしていた。
「あったかいですね」
サルサはそう呟いた。
1/12/2025, 9:56:50 AM