月森

Open App

 君はもう、泣いたりしないわ。私がいなくなっても。君はずっと強くなったし、何より私よりずっと優しく支えてくれる人ができた。君に私はもう、必要ない。
 
そんな風に考えてしまうのって、私が勝手に君を生きる理由にしていたせいね。私という風船が、彼岸の空に飛んでいってしまわないための、重しにしていたの、ごめんなさい。そして、今までそれでいてくれて、ありがとう。君はそんなこと、気付いてもいないのだろうけど。

 気付いていないといえば、私本当は小説家になりたいわけじゃないの。高校の時の“将来の夢”なんて作文で、なりたいものがなくて適当に書いた夢を、君はずっと信じてくれていたのね。確かに、文章を書くことは好き。でも、仕事に出来るほどじゃあないの。それにね、私、君って読者がひとりいてくれたら、満足だったのよ。いつも君のための物語を書いてた。結婚式のスピーチ。あれが私の最期の作品よ。推敲を重ねてようやく完成した、君を泣かせるための物語。君のために生きていた私のことは、どうか忘れないでね。

3/18/2023, 12:16:28 AM