星蒼楼

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特別な夜

 はぁ、とひとつため息を零す。今日も修行を終える頃には森の生き物たちはすっかりと寝静まっていた。そんな中、ぽつんと光る小さな小屋を目指して重たい足を動かした。

「ただいま戻りました。って、何これ!」
 帰宅するとすぐに、普段とは違ったいい香りが鼻をくすぐった。目線をテーブルに移せば、一際目を引く鶏の丸焼きに、香ばしい匂いのガーリックトーストや、生ハムの乗ったサラダ、僕の大好きなミネストローネまで用意されている。
「ああ、おかえり。今日もご苦労さん」
 キッチンから珍しくエプロン姿で出てきた師匠は、普段の鬼のような形相がどこへいったのか、柔らかい笑みを浮かべている。
「あの、これって……」
「これすごいだろ? 今日はお前がここに来て五年になるからな。普段はこんな盛大にやったりしないが、今日くらい良いと思ってね」
 話しながら目の前に来た師匠は、やはり何もかもがまだまだ大きい。その大きくて優しい手で頭を撫でられると、修行中に張っていた糸がふっと解けるようだった。
「大きくなったな」
「まだまだです」
「ははっ、わかってるじゃないか。さあ、冷めないうちに早く食べようか。まだ肉団子とエビフライがあるんだ。運ぶのを手伝ってくれ」
「はいっ!」
 一生忘れられない特別な夜は始まったばかりだ。

1/21/2024, 7:02:11 PM