あと何度陽が沈んだら
あの子に会えなくなってしまうだろう
答えのない疑問が頭をよぎっては
風が攫っていく
まるで生き急ぐ様に
足早にすぎていった私の人生
生涯かけて大事に守っていくと決めた
あの子との出会い
羽根のように軽い身体を抱きしめて
ほおをすり寄せて泣いたのが
まるで昨日のことのようだ
ふと
部屋のドアが開く音がして振り向く
お母さん
私をそう呼ぶ子どもは
駆け足で私のところへ来ると
ランドセルを背負ったままベッドへ顔を埋めた
黄色い帽子の隙間から
いたずらっ子のような笑みが覗く
私はあと何度この笑顔に会えるだろう
この子のこれからの人生
楽しいことも辛いことも腹立たしいことも
全部傍で見ていたかった
部屋のドアの前には
一緒に来たのであろう母が
鞄の持ち手をぎゅっと握りしめ
涙を堪えていた
ああわたし
このこを
かなしませたくなかった
[病室]#88
8/3/2024, 8:03:28 AM