未知亜

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ㅤ電話の向こうから、小さく溜息が聴こえた。私に向けたものなんじゃないだろうかって、まためんどくさい考えが浮かぶ。
「もうさ、いい加減考えんのやめたら?」
ㅤ疲れない?ㅤもう二年だよ?
ㅤわざとらしいほど冷たく、舞が言い放つ。
「……まだ一年と、八ヶ月」
ㅤ弱々しく答えて、私は鼻をかむ。
「もう好きになれない、でも、それ以上に嫌いになれない。そんなこといつまでも考えてないで、次に進みなさいっつってんの!」
ㅤ舞が私のために言ってくれてるのは、わかる。一年八ヶ月経っても、こんなに話を聞いてくれてることも。
「そうだよねえ……」
ㅤ言葉を濁す私の視線の先には、あの人にもらったハーブティのパッケージ。未開封のまま賞味期限が切れていた。
「好きにも嫌いにもなれないなんてのは、もう友だちですらないってことでしょ」
「……わかった。今から飲む!ㅤ抹消する!」
ㅤ一年以上期日切れの袋を引き裂いて、私は高らかに宣言した。
「なに?ㅤ話がまったく見えないんだけど?ㅤなにが始まんの?」
「好きにも嫌いにもなれない気持ちの、供養~!」
ㅤマグカップに勢いよくお湯を注ぎ、続いて氷をいくつかぶち込んで、私は思い切り変な音をたて、どす黒い液体を喉の奥に流し込んだ。


『好きになれない、嫌いになれない』

4/30/2025, 9:59:40 AM