喜村

Open App

 とても寒い夜だった。部屋にいるから吐く息が白くなることはないが、外はそうなる程の寒さである。
「ほら、早く寝なさい~」
 リビングでテレビにかじりついている少女に向かって、母親は声をかけた。
「いやだ!」腰まである髪を左右に揺らして答える「サンタさんが来るまで起きてるの!」
 母親は呆れ顔である。
「寝てる時じゃないと、サンタさんはこないのよ~」
「寝れない! サンタさんに会うまでは寝れない!」
「お母さんの言うこと聞かない悪い子には、プレゼントこないよ~」
「プレゼントはいらないから、サンタさんには会いたい!」
 少女は母親に食いつく。更に母親は困り顔である。
眠れないほど興奮する気持ちも、母親は理解できたらしい。きっと、自身もそうだったのだろう。

 しかし、夜の11時を過ぎる頃になると、少女の瞼は言うことをきかなくなってきたようだ。
「そうだ、リビングじゃなくて、布団で横になって待ってましょう? 布団のほうが温かいよ」
「……うん」
 少女は目を擦りながら寝室へと移動する。

 母親の勝利であった。
 翌朝、少女の枕元には綺麗なラッピングが施されたプレゼントがあったようだ。



【眠れないほど】

12/5/2022, 12:05:01 PM