「堂々と母親だと名乗れないなら生まないでよ」
ぽかん、とした顔で僕を見つめる顔が滑稽だ。あれだけうるさく「私の子だ」「私は育ててない」だの喚いてたくせに今更なんなんだ。
僕がそんなことを言うとは思っていなかった、まさに青天の霹靂だったみたいな反応。初めて親に殴られた子どものように、信じていたものが突然知らない何かに変わって裏切られたみたいに。ひたすらにぽかんとしている。
少々特殊な家庭環境だったとはいえ、別に複雑なことなど一つもない。偏愛が当たり前の家庭で育った親がそのまま自分の子どもたちにも同じことをしただけのこと。
弟妹は可愛がることには全力で、上の子には理想と夢を詰め込んで、それぞれを着せ替え人形かのように動かすことを教育だと言い張る。そしてそれを主導している者こそが『親』であり、たまにしかその役割を任せてもらえなかった目の前の母親は『親』にはなれなかったと思い込んでいる。
まあ、この例えも僕からみたらそう感じたというだけで間違っているのかもしれない。だとしても僕にとっての祖父母がお人形遊びをしているようにしか思えないのだから仕方のないことだ。
最近はのらりくらりと躱すだけ。祖父母のことも両親のこともまともに相手していたら、いつの間にか自分が壊れてしまったから。何気ない日常の中で押しつけられる役割をぐしゃぐしゃに踏みつけて壊した。
シナリオ通りの『理想的な子ども』という人形であることをやめた。そうしたらこのざまだ。
「前に言ってたよね、デキ婚だったって」
「あんな人だと知ってたら結婚しなかったって」
「それってさ、僕を生まなければよかったってこと?」
―――母親ってなんなんだろうね
青ざめた顔でブルブルと震えるだけのお人形。理想と夢を詰め込まれて生きてきたはずなのに、いつからかシナリオから外れて狂ってしまったお人形。
僕は今もこれからもずっと壊れて壊していく。何事もなかったかのようにずっと、ずっと。ずっとね。
【題:何気ないふり】
3/30/2024, 3:05:59 PM