来るもの拒まず、去るもの追わず。
そんな生き方をしていた私には、親友は疎か友人と呼べるような他人はおらず、しかし、それを特に孤独を感じることもなく、自由気ままな一人暮らしを満喫していた。
庭木に留まる小鳥や虫を愛で、日課の散歩に趣味、身の回りの細々とした用事にと、静かでゆったりとした毎日だった。
早くに夫を亡くし、女手一つで育て上げた息子と娘は北と南、離れた所で家庭を築いており、実家に訪れるのも年に二回程。
なかなか帰って来れないことに二人とも申し訳なさそうな顔で謝っていたが、私としては二人が立派な大人になって、孫の顔まで見せてくれたことが嬉しかった。
お父さんも喜んでるよ。
きっとあの世で小踊りしてる。
ふふふ、と笑っていると左肩をトンと叩かれた。
懐かしい樟脳の香りに、ゆっくりと振り向けば、息子よりも何歳か若い青年が一人。
僕はそんないかれポンチじゃあないよ。
そう言うと、大仰な仕草で肩を竦めてから夫は笑った。
テーマ「私だけ」
7/19/2024, 7:47:47 AM