【空模様】
広く澄み渡った青空と、足元にはまるで鏡のようにそれを反射する透明な水。
「傑」
そこにはかつて、親友だった男がいた。
「悟」
片手をひらひらと振り笑う顔は高専に宣戦布告しに行った際に見た時よりも若い。
「君は老けないね。まるであの頃みたいじゃないか」
「そういうお前だって。自分の格好見てみろよ」
サングラス越しの目が面白げにこちらを見ている。
言われて自分の服を見下ろすと、高専の制服を着ていた。ハッと顔を上げると悟もまた、制服を着ている。
「これは何かの悪い夢かな。私もずいぶんと感傷的になったものだ」
「いや、これはおそらくだけど俺も同じ夢を見ているんだろう。まあ、起きてみないことには分かんねえけど」
ポケットに手を入れこちらへ向かってくる悟には敵意は感じられない。警戒は怠らないようにしようとしても、あの夏を彷彿とさせる空模様と目の前にいる男にその気が削がれてしまう。
「一人称、変えたんじゃなかったのかい?この間の君は・・・」
言いかけて止まったのは、青白くて細長い人差し指が唇に当たるのを感じたからだ。
戸惑い、視線を上げるとそこには柔らかく笑う悟がいた。
人差し指が唇から離れ、今度は指の背で頬を撫でられる。そして冷たい手のひらが頬を包み込んだ。とても優しい仕草だ。
「俺はお前を殺すことになるだろうね」
悟はそう言ってもう片方の頬を冷たい手のひらで包む。
私は悟のその行為の意図が分からず、かといって拒絶する気も起きずに戸惑いながらもされるがままになっていた。
「もしそうなったら泣いてくれよ」
「泣かねえよ」
でも、と悟は続けた。
「お前にずっとこうして触れてみたかった。俺は、」
意識が浮上する。気づけばそこには見慣れた寝室の天井があった。
全く、嫌な夢を見たものだ。
そう小さく呟いて、まだ感触の残る頬をぐいと拭った。
8/19/2023, 4:39:20 PM