草臥れた偏屈屋

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1年後、私はきっと輝く。そんな幻想に酔いしれ、私は年を食った。
「そろそろ現実に向き合わないとな。」
酒の場の席で友人にそんなぼやきを呟いてみた。
「藪から棒にどうしたんだよ?」
友人が私の顔を覗き込む。こんな話に乗ってくれるとは私も想定外だった。
「ただ夢を追うの、もういいかなって。」
軽い口調で流そうとしたが、友人は私と目を合わせる。
「そう思うならやめれたら?この人生、やりたいことやったもん勝ちなんだから。」
酒の場ならでは騒がしさは、友人の言葉によって聞こえなくなった。私の全身に緊張感が走る。
「まあ、特に他にやりたいことは無いんだけどね。」
隠れきれない未練が漏れ出してしまった。なんともみっともない。
「でも、やめたいんでしょ?」
「好きでやめたいわけでは。」
友人の顔が歪み始めたが、何かを考えているようだった。少し私から目を離し、どこか眺めている。
「それって成功しないとダメなの?」
「まあ、そうじゃないとお金にならないし。」
「つまり、お金の問題ってことか。どうしても、それで食っていきたいんだね。」
友人は私を詰めていく。この感覚がとても苦手である。
「疲れたなら休めば?別のことして、まだ戻りたくなったら戻ればいい。」
私も馬鹿ではない。そんなことなら既に分かっている。そんな苛立ちと抱えつつ、渋ってばかりの己の恥ずかしさで何も言えない。ただこの話題から逃げたかった。
「ただのぼやきだから気にしないで。」
「わかった。どうこう言っても、所詮は気持ち問題だもんな。とりあえず、お疲れさん。」
すると友人は酒で何かを流し込んだ。私も流し込めれば良かったのだが、ああ、図星を指されたな。幻想に疲れた脳みそは未だ私の心を震わせる。

6/25/2024, 2:23:59 AM