吸血鬼はよく眠る。
睡眠をとって脳を休めるというよりは、退屈になって寝ていることが多い。それでちっとも外に出ない個体を見た人間との間で『吸血鬼は日光を浴びると死ぬ』という認識の齟齬が生まれたんじゃないか、と俺は思っている。
まだシンヤと同じベッドで寝ていたころ、うっかり長いこと寝てしまったことがある。人間の子供の無限の体力に付き合って疲れていたのかもしれないし、はるか昔の思い出に耽溺したくなるような何かがあったのかもしれない。とにかく、目が覚めたら十二時間以上経っていて、腕の中にいたシンヤは家の中のどこにもいなかった。そのことを受け入れた時、俺は
「ユキ起きて」
「うぐっ」
起きた。目を開けるとリビングの天井が見えた。こたつで寝ていたのだ。傍らにはルビンが汁椀をすすりながら真っ黒く座り込んでいる。トレードマークのコードを脱ぐと、存外印象はシンプルだ。黒のタートルネックにスキニーパンツ。ベルトのバックルだけが銀に光っている。
「……何飲んでんの」
「しじみの味噌汁。こたつの上」
俺の分もあった。寝起きと寝る前までのアルコールでくらくらする頭に濃い味噌の味が染みていく。うまい。
「シンヤは?」
「知らない。起きたらいなかった。よくある?」
「よくある」
ベランダを見ると洗濯物がはためいている。きちんとやること、というかやるように定められたことはきちんとやる子に育った。俺の手腕。
「なんかうなされてたけど」
大丈夫? とルビンが顔を覗き込んできた。心配にしては起こす手段が手荒すぎるだろうが、と遅れて思ったが、色んな力加減ができていないのは昔からだ。
「変な夢でも見た?」
「まあ」
目が覚めたらシンヤがいなかった。あの時はまだあいつの母親がいなくなってすぐで、俺もシンヤも慣れていなかった。外を探し回って、夕方ようやく近くの公園で吐くほど泣いているのを見つけた。ふたりで泣きながら帰って駆けつけたルビンに迷惑をかけたところまで含めて、トップクラスの悪夢だ。
こんなこと二度とごめんだという気持ちと、ルビンのしつこい説得もあって、ほどなくしてシンヤをルビンに預けて、俺は思う存分眠り続けた。腕の中にあった温かさと重さを、起きている時間の分だけ忘れていく気がして。
「昨日の話さあ、考えておいてね」
ルビンがぼんやりと言った。わかった、とぼんやり返事をする。考える。
今あの子の重さはどれくらいなんだろうか。
抱き上げないと俺の歩きについてこられなかった時期、そうしないと動こうとしなかった時期。少しずつ自分の足で歩くようになって、今では俺がいなくてもどこにでもいける。勝手に図書館に行って本を借りてくるし、知らないうちにスーパーに行って俺の嫌いなものを買ってくる。本当に、今ならどこにでも行けるんだろう。
味噌汁を飲み干して、もう一度こたつに潜り込んだ。これ以上考えたくなかった。
ルビンが呆れた声で言ったおやすみを遠くに聞いて、もう一度意識を落とした。
1/12/2026, 7:23:18 PM