ロックよりもバラードのほうが好き。
まるで静かな馬車みたい。私を乗せて、雨の中のぬかるんだ道をゆったりと進む。無愛想な御者がいて、無愛想に要求する銭は少しばかり高いけれども、降りた先で振り返ると、ほんのりと微笑んで馬の首筋を撫でている。そんな、小さな優しさに包まれて、私と共に歩んでくれるような、バラードが好き。
バラードの中でも、悲しい歌はイヤ。さみしいけれど、希望に満ちた歌が好き。さみしい恋が、いつしか真っ赤なりんごになるまでのワンシーンを、ひそかに切り取ったような歌が好き。そう、恋の歌がいい。どんな歌より、恋の歌がいい。
まるで私の写し身のように、つくった人はもしかして私なのではないかと錯覚するほどに、私の心のうちに沁み入り、水に溶かした墨のように広がって戻らない、そんな歌がこの世界には溢れている。桜の花は散り、雲は千切れて青い空になる。信ずれば恋は叶うと思わせてくれるような歌が溢れている。そんな歌が好き。
そんな歌さえ聴いていたなら、聴いていられたなら。きっとこの心が満たされたらいいのに。真夏の日、教室の中でまるで蚊に変わってしまったように孤独な心も、きっと消してしまえればいいのに。
きっと変わらないのだろうな。私の心に巣食う諦念は根深い。明日も明後日も傷付いて、いつかくそったれた思い出になることを信じて、歩む道以外を閉ざされた。
リアルって所詮そんなもんだから、いつか白馬の王子様が私を助けに来てくれることを信じて、私は今日もバラードを聴く。
次の馬車はいつ来るかな。
5/6/2025, 10:47:19 PM