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【もしもタイムマシンがあったら】

もしもタイムマシンがあったら。
そんなよくある質問に僕は必ず「過去に行く」と答える。
僕には死んでも変えたい過去があるから。

大人になった僕は科学者になった。
素性を調べ上げ、信頼できると思った科学者数人と秘密裏にある研究をしていた。
時空を越える研究…つまりタイムマシンの開発。
「時空を越える」という行為は禁忌であり、タイムマシンの開発なんてものは論外。
禁忌の研究をしている僕らは犯罪者なのだ。

禁忌を犯してでも僕らには「変えたい過去」がある。
色々とあるが、僕は「幼馴染みを殺した犯人を殺す」ことを目的に何年もこの研究をしている。
犯人については既に特定していて、現在は別の事件を起こして塀の中にいるらしい。
だから此方から簡単に手を出せない。
塀の中にさえ居なけりゃ、すぐにでも殺しに行ってたのに。

そんなこんなで研究開始から約二十年。
僕らの目の前にはピカピカな数台のタイムマシン。
試作と改善を繰り返してなんとか完成できた代物だ。
行きは問題ないが、向こうの状況がわからないからちゃんと帰れる保証はない。
だけどそんなの関係ない。
今更僕らの想いは揺るがない。
禁忌を犯してでも変えたい過去。
手を伸ばせば変えられる所まできてるんだ。

仲間たちはそれぞれの「変えたい過去」へと旅立った。
1人残された僕は長い間世話になった研究室をぐるりと見渡した。
ツンとした匂いの薬品と仲間たちが好んでいたコーヒーの混ざった独特な匂い、事故った時のボヤの跡、タイムマシンを作る過程で生まれたガラクタの数々…。
ここにあるものは僕の宝物であり、僕の全てだ。

覚悟を決め、白衣を脱ぎ捨てるとタイムマシンに乗り込んだ。
そして、「あの惨劇の日」の前日にダイヤルを合わせる。

「今会いに行ってやるよ、クソ野郎」

7/22/2024, 8:46:28 PM