810

Open App

 もっちりと揚がったココア色のあげぱんは、多幸感に包まれる午後の香りにぴったりだ。大きく口を開けて齧りつくとコクのある甘さがじんわりと頬を緩ませてくれる。幸せで、眩しくて、ほんのりと切ない。何度も思い出してしまう子どもの頃の暖かな思い出。
 ぼんやりとした夕方の空気のなかで、また一頁めくった。
アルバムのなかの私は口の周りを真っ黒にしていて、まるで泥棒のようだ。それなのに、瞳はきらきらとさせながら丸っこい手で食べている。むず痒さと今と変わらない自分らしさが残っていて、写真と同じように私は笑ってしまった。


/ 澄んだ瞳

7/31/2023, 10:10:59 AM