「あちらの端から端まで、全部くださる?」
サングラスにヒョウ柄のジャケット、タイトスカート。いかにもアレな女性が、自分の腕を目いっぱい開いて言った。傍で二千円くらいのスカートを掴んだり離したりしていた私は、思わず彼女をジッと見てしまう。
人生で一回は言ってみたい言葉をあっさり言い放った彼女。対してほんの数千円すら迷う私。世界とはこんなにも残酷なのだと、一瞬で分からせられる。
彼女と相対している店員さんは、すでに慣れた様子で在庫確認に入っている。もしかしたら常連なのかもしれない。
急に、この店にいるのが恥ずかしくなった。商品を買いそうにない、買ってもせいぜい数点の私なんかが、こんなお金持ちも通うようなお店にいても良いのだろうか。否、良いはずがない。給料が入ったからちょっと奮発しようなんて出過ぎた真似をしなければ、こんな惨めな思いをせずにすんだのだ。
(帰ろ……)
もう今日は何もいらない。慎ましく、出過ぎた真似をしないで、ひっそり暮らすに限る。
私は財布をカバンにしまって、店を出た。
4/20/2024, 1:28:45 PM