さくらこ

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色とりどり。【創作】【えもらぶ】

「ごめんください。」

家族で花屋を営む俺は、声がして階段をおりて「あーい」と店に出た。

そこに居たのは、何本もの花を腕いっぱいに抱えた人だった。
なんとなく女性なのはわかる。ただ、深くフードを被っていて顔が見えない。しかも俯きがち。

怪しい客だが、それでも俺は笑顔で接客する。

なんせ、この花屋は森へ入る道にあるもんだから、客も多いわけじゃなく、毎月赤字寸前。黒字を何とかキープしてんのは、オーナーである母親が営業上手で常連さんがいるからだった。

怪しい客でも客は客。こっちだって金のためにやってんだ。

「あの、、すみません。お花を買いに来たわけではないのですが…」
「?そうなんすか?ってかその花は……」

まさか盗んだ…わけじゃないよな?この店に置いてる花もあるけど、置いてない花も持っているし、商品の数も減ってなさそう……だな。

「あ、これは私の家の周りに咲いてるお花で…あの…お時間ありますか?あ、お金ははらいます。」
「えー…っと?時間なら山ほどありますけど、なんの御用で?」
「このお花の花言葉を、教えて欲しいんです。花は好きなんだけれど、花言葉は分からないから……」

その女は名前をアリアと言った。アリアさんは色とりどりの花を俺に差し出してきた。
これ全部ですかと引き気味に聞けば、アリアさんは申し訳なさそうに頭を下げながらお願いしますと言った。
俺はしぶしぶそのたくさんの花を、腕いっぱいに抱え、客も来なさそうだしと店の奥にある椅子に案内した。時間がかかりそうだったからだ。
けれどアリアさんは首を横に振って断った。え!なんで!?と思ったが、腰を怪我していて立ったり座ったりが痛いんだそう。それは大変だな。

俺は遠慮なく椅子に座って、花を1本ずつ手に取ってその花がなんなのか見始めた。

「あー…俺、花は人よりは詳しいっすけど、全部わかるわけじゃねえし時間かかりますよ。母さんがいたら良かったんすけど、今日に限って店番任されてて不在なんすよ。すみません。」
「いいえ。こちらこそすみません、引き受けてくれてありがとうございます。時間は平気です。夜までに終われば。」
「今は…昼の1時、か。それは余裕っすけど……なんで花言葉聞きに来たんすか?あ、花買う時に選ぶ基準で花言葉大事にする人も結構いますけど、アリアさんもそれっすか?」
「…はい。あの…母に。」
「あ、お母さん?」
「はい。母に、花を届けたくて。感謝の言葉を直接言うのは少し恥ずかしいから、花をプレゼントする時にこんな言葉なんだよって、それくらい伝えるなら私にもできるかなって」
「めちゃくちゃいいっすね!俺も頑張ります!」

1つずつ花言葉を言いながらほかのとこに置いていくのを繰り返した。
何本か同じ花もあったがそれは飛ばした。
ひとつ言う度「素敵ですね」とか「いいな」と独り言みたいに反応していた。

結局全部早20分もせず終わって、俺って才能あるんだなと思う前に、色とりどりに見えた花も意外と種類は偏っていたおかげだと思った。

結局、1本だけ選んでそれを手に帰っていった。お礼の代わりにと代金を渡されたが、断って、要らないならその1本以外の花をくれといった。アリアさんは喜んでくれた。

それからアリアさんは同じように1週間に何度が来る常連さんになった。

仲良くなったが、俺が「アリアさんは目が見えない」ということを知ったのはつい最近だった。
フードを外した彼女の目はずっと開くことは無かった。
だが、上着に上手く隠していた長いゆるりとしたブロンドヘアと長いまつ毛と白い肌は人形みたいだった。

お母さんは今入院中らしい。いざ身近な人の命の重さを感じると、感謝を伝える気になったらしい。恥ずかしがってる暇は無いからと。
花言葉も花も、母親は喜んでくれたとアリアさんはそれこそ花のような笑顔で教えてくれた。

「本当はね、お花の名前と花言葉は、一致して覚えてるんですよ。
でも…ほら、お花がそもそも、見えないから。花言葉も、わかんないでしょ?
騙したみたいで、ごめんなさい。」
「え!いいんですよ別に。常連増えたの嬉しいし!」

アリアさんはあれから店でも花を買うようになった。これは自分で持って帰るようだと言って、花言葉じゃなくて匂い優先で買う。目が見えないと、色より、見た目より匂いが大事なのは、たしかになと思った。



そして今日、俺はアリアさんの家の周りの花畑にやってきた。目は見えなくとも管理は行き届いていて、花屋の俺から見ても素晴らしかった。種類と質が良い。

「すっげえ!すっげえっすよここ!」

テンションが上がる俺に、アリアさんはクスクスと笑った。

「そうかな。ありがと」

色とりどりの花に囲まれて、アリアさんはいっそう美しかった。

「…」

アリアさんは美しい女性だ。でも、その目でこの素晴らしい色を見ることは無いと思うと、なぜだか俺が少し寂しかった。そんなこと言うのは失礼に値するけど、でも少し。

「アリアさんも、花みたいっすね!」
「ええ?それ、どーゆうこと?」
「ここの花は、色とりどりで、それぞれ良さがある素敵な色した花ばっかですよ。
色の種類って、花屋からしても大事なんすけど……
色によって、与える印象とか変わるから。
でも、アリアさんも色んな表情があって、それ見る度俺、同じように楽しかったり面白くなったりするんですよ。
そもそも、綺麗だし!」
「えっ?えっ?わたしが?」
「はい!どんな表情でも、いつだって綺麗なのは変わらないっす!」

「え、ええ?ええ、あ、あ、ありがとう。」

顔を真っ赤にしたアリアさん。ほら、そーゆーとこが!花みたい。

これからも、アリアさんの色とりどりな綺麗な表情を沢山見れたら嬉しいななんて。

1/8/2023, 7:13:05 PM