レミニセンス

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海の底



荒々しく削ったような岩場から、震える足先をそっと水につける。
僕の自由を奪うために、僕の体をまるごと冷凍してしまうのでは無いかと言う程の冷水が、徐々に僕を覆い隠す。

沈むつもりはない。ただ、大海にひとり、うっすらと明けゆく青い世界で、手足を投げ出し寝そべるだけだ。

肺が凍りついてしまう程の冷気を、かろうじて浮いたままの僅かな部分に感じて、僕は、自分が生きているのかさえ曖昧なまま浮かび続ける。

寒いだとか冷たいだとかを通り越すほどの景色のなか、なぜか僕は心があると思しき場所に、小さな、
しかし確かな熱を感じた。

陸地にいるとき、僕は海の底にいるようで。
もう誰も、僕を見つけられなくて。
もう誰も、僕のことなど探してさえもいないようであった。

僕はもう一度だけ、海の底に沈んだまま
もがき続ける自分自身を、無情な程に寒々しい
一月下旬の大地のもとへ、浮かび上がらせることに
挑戦しようと思う。

今しがた僕の心に宿った小さな熱が、僕の凍りついた肺を溶かしたようだ。僕は大きく息を吸い込んで、
目の前に構える岩場を、海水に包まれて重くなった服と共に登ることを決心した。

1/20/2024, 3:10:08 PM