れいおう

Open App

『いざ街へ』

街へ行くのは簡単だ。
家の玄関から一歩踏み出せばそこには街が広がる。誰が住んでいるかも知らない住宅と強烈な光を放つ店が立ち並ぶ。そこには数多くの人、人、人。僕はその光景が嫌いだ。まるで自分は住む世界が違うと嘲笑ってくるように感じてしまうからだ。
だから僕は今日も自分の家に引きこもる。
朝起きてリビングに行くと僕はテレビを付ける。いつも朝見ているニュース番組。これはさらに僕に恐怖を植え付ける。ぼーっと見ながらご飯を食べていると親の「いって来るね」という声が聞こえてくる。最近は特に何も言われなくなった。
ご飯を食べ終わってもすることがないのでそのニュース番組を僕は見続ける。きっと僕の学校の中で毎日このニュース番組をエンディングまで見ている人は誰一人としていないはずだ。
そのニュース番組が終わると、僕はスマホをいじりだす。SNSサイトを巡回して何をすることもなく時間を浪費していく。そこにはキラキラとした投稿が表示されている。いつもならただすごいとしか思わないその投稿に僕は今日嫌悪感を感じた。
きっと今日は心がナイーブな日だ。
用意されてある昼ご飯を食べてまたSNSサイトを見始める。心は嫌がっていたのになぜかやめられない。
ふととある投稿が目に入ってきた。入学したての時にフォローしてそのままになっている同級生の投稿だった。そこには今日のテスト疲れたというような内容が書かれていた。そう言えば今日はホントだったら期末考査の日だったな。そう思い出すと心の中がざわざわしてきた。
このままじゃだめじゃないかと長い事見てこなかった現実が僕に向き合ってきた。
もうやめようと、別のアプリを開く。関係ない動画を見て心を落ち着かせようとする。だがしかし現実が僕を襲うのをやめてこない。何も楽しくないと思ったのはそれが初めてだった。こんな現状を変えないといけないという思いがもんもんと湧いてでてくる。
すると現状に不満を持つあなたへというタイトルの動画がおすすめされてきた。僕は誘い込まれるようにその動画を開く。見たこともないチャンネルだった。動画が始まるとオープニングを経て、少しのことから初めよう、そうすれば人生変わります。と音声が流れてきた。
なぜかは分からないが、その知らない人の知らない言葉に心が動かされたような気がした。ストンと何かが落ちた。
少しのことでいいから始めてみよう。そしてこの現状を変えよう。その言葉は僕を突き動かすのに十分な力を秘めていた。そう決心した僕は家から出ようと思い立った。きっとこれは少しのことだ。
玄関で靴を履き、ドアに手を掛ける。
少し緊張する。心臓がバクバクと鼓動を止めない。
俺は覚悟を決めてドアを押す。
そして勢いのまま僕は街へ踏み出した。
街へ一歩踏み出すと、そこに広がっているのはのはなんてことはないただの一風景でしかなかった。何が僕をこんな恐怖にさせていたのだろうかと分からなくなるほどだった。
そこにいる数多くの人もただの風景の一部分でしかないではないか。
今日僕はひとつ成長を重ねたようだ。
さあこれからどうしようか。
いざ街へ。
僕はどこかに向かって歩き始めた。

1/28/2024, 10:26:22 PM